―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(60)]―
東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、大分との県境にある熊本県産山村(うぶやまむら)で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は真冬の仕事についてをレポート。
クルマで来店するお客さんのために真冬は休業
熊本県阿蘇郡の奥の産山村の更に奥に位置するレストラン、asoうぶやまキュッフェ。ここ2、3年は1月と2月は冬季休業でお店はオープンしていません。そこでよく聞かれるのが、「冬のお休みの間は、なにをしているのですか?」
ただでさえ、土日祝日しか営業していないお店が2か月も休んで大丈夫!? という私がお客だとしても聞きたくなってしまうでしょう。
オープン当初の冬は、1月もがんばって営業していました。私たちのお店は、信頼している猟師さんから状態のよいジビエを一頭買いしていることから、当然オープンした年の1月も購入していたし、お客さまからのご予約もいただいていました。
ところが、当日や前日に雪が降るとキャンセルが多発してしまうのです。私たちはスタッドレスタイヤで四輪駆動のクルマに乗っていますが、街なかに住んでいたときはノーマルタイヤが当たり前でした。しかし、凍った路面や雪の残る山道や橋の上は、一見すると大丈夫そうなのにノーマルタイヤでは危険このうえない!
なかには、来店時は雨だったのに食事をしている数時間で雪に変わり、降り積もっていたこともあります。そうするとお客さまは、おっかなびっくり運転して帰ることに。
そんなことが何度か続き、1月と2月は思い切って冬季休業することに決めたのです。お休みにしてしまえば、一頭買いしたジビエの消費に悩むこともなくなります。
お店は休みでもブドウ畑は稼働中
では、「この期間なにをやっているのか?」というと、その期間は大事な大事な畑作業があるのです。
ワイン用の品種のブドウを植え育て、2023年度からは自家ワイナリー「原っぱワイン」も完成しスタートした私たち。冬の間は、そのブドウの木が休眠状態になります。その時季にしかできないことが…。それはブドウの木のせん定!
1000本以上のブドウの木から各10本前後出ている枝をバッサリと切る! もうすぐやってくる春に芽吹いて欲しい数芽だけを残して本当にバッサリと切る!
最初の数年は、せっかく伸びた枝を本当にこんなに切っていいの? この残した数芽から出るはずの芽が出なかったらどうする? などと弱腰になってしまい、なかなかバッサリ切れずにいました。
その結果、あとの作業量が多くなり作業が追いつかない…。そうこうしている間に、枝がもじゃもじゃに伸びて風通しが悪くなり病気になりやすくなったり、こんなところから芽がでても困るよね? みたいな箇所から出てきたり、あるいは果実がまったくつかなかったりしました。
ここ2年ほどはバッサリと切ったり、枝を切り替えたりと躊躇せずにできるようにはなりましたが、2年先3年先を考えて悩み、手が遅くなる場合も多々あります。
思った通りになっていても、よくよく点検すると肝心な枝の中が虫に食われていて、その枝の部分は枯れてしまっていた、なんてこともあるのです。
この冬は順調に育って枝が太いブドウの木も多くなりました。うれしいことですが、普通のせん定バサミだと手や枝が太すぎて腕がピキピキしてきたのです。これはいわゆる腱鞘炎になるのでは!?
お風呂でもんでみたりシップを貼ってみたりしていますが、あまり効果はありません。
そこで、解決策として電動せん定バサミなるものを買うことに決めました!! 果たして救世主となるのでしょうか!? 電動バサミが届くのを今か今かと楽しみにしている、移住して9回目の冬でした。
―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(60)]―
【折居多恵さん】
雑貨クリエーター。大手オモチャメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。