WEBライターを経たのち、現在は富山県滑川市の地域おこし協力隊として活動する田中啓悟さん。今回は、富山県初の建築公開イベント「なめりかわ建物フェス2025」の様子をレポートします。
普段は非公開の建物内部を特別に公開
2025年3月22日(土)、23日(日)、以前記者会見の様子をお伝えした富山県初の建築公開イベント「なめりかわ建物フェス2025」が開催。私も実行委員として参加しました。
滑川市に点在する国登録有形文化財を含めた歴史的建築物、11か所を公開した今回のなめフェス。宿場町として栄えた滑川市の瀬羽町を中心に、当日は県内外から多くの人が訪れました。
写真の旧髙嶋医院は公開建物の1つで、滑川の詩人であり医者として活躍した高島高(たかしまたかし)が人生をともにした、思い出深き邸宅。没後70年の節目を迎える2025年、偶然にも開催されたなめフェスのために、内部を公開することになりました。
今回公開された11か所のなかでも、2日目のクロージングイベントの会場にもなっている廣野家住宅は、米騒動の渦中を乗り越えた住居として現存する建物。東京の築地本願寺、京都の西本願寺の建立に携わった宮大工・岩城庄之丈が手がけたこの建物も、内部の撮影やSNS投稿は禁止ながら、今回特別に公開。入場制限をかけていることもあり、長蛇の列が絶えませんでした。
地元の人ですら入ったことがない、という建築物も多く、当日は滑川で生まれ育った人も多数来場。昔は駅もこんな形だったね、この通りが栄えていた頃が懐かしいなど、在りし日を懐かしむ姿が多く見られました。とくに、この辺りの地域は宿場街道だったこともあり、半世紀前は多くの商店が立ち並んでいたそう。
建物ガイドツアーや産業体験も実施
いくつかの建物では、建物ガイドツアーも行いました。NPO法人や実行委員を中心に、1時間ほどかけて建物内を解説。皆さん、ガイドの話をじっくり聞きながら、建物の魅力を味わっていました。自分ではわりと詳しいほうだと思っていましたが、まだまだ知らないことも多く、勉強不足を痛感させられました。
なめフェスは建物公開だけではありません。産業体験として、水産業のお話も聞かせていただきました。ご協力いただいた『川村水産』の工場にて、ホタルイカ漁のお話が聞けただけでなく、ゆで上がったばかりのホタルイカの試食までさせていただき、大興奮でした。
アツアツのホタルイカは絶妙な塩味で、いくらでも口に運べてしまうおいしさ。店やスーパーのホタルイカでは味わえない、特別な風味を体験することができました。
1日目の終わりに国の登録有形文化財でもある旧宮崎酒造で開催した、なめフェスアフターパーティは大盛況。県内外から多くの建物好きの人々が訪れ、各地域で開催されている建物公開イベントなどについて、熱く語り合う姿が見られました。
来場者は5000人にのぼり大盛況
2日目。僕が巡回していると、今回、アドバイザーとして尽力いただいた「わくわく建築」の藤沢うるうさん、コジマユイさんを発見。イベントを目いっぱい楽しんでいる様子でした。
イベント終了後、コジマさんからは「いつか、自分でも建築公開イベントをやりたいと思っていたので、夢がひとつかなった」とのお言葉が。夢をかなえる場として、この滑川を選んでもらえたことは僥倖です。
今回のイベントを通して、2人の活動を応援する人たちが滑川を知ってくれて、同時に滑川に住む人が2人を知ってくれました。地域で活動する者として、これ以上にうれしいことはありません。
イベントを締めくくったのは、廣野家2階から琴とフルートで奏でられる音楽会。琴奏者の黒川真理さん、片手フルーティストの熊谷永子さんによる演奏は、聴く人をうっとりさせるやわらかな音色で、なめりかわ建物フェスを鮮やかに彩ってくれました。
2日間のイベントを駆け抜け、最後は記念撮影で締め。メンバーが初めて顔を合わせたのは2024年の8月。気づけば半年以上の期間、同じ目標に向かって共に突き進んできました。結果、来場者はのべ5100人を突破し、初年度とは思えないにぎわいに。滑川の可能性を感じられた2日間になりました。
なめりかわ建物フェスは2026年も開催予定です。今回はできなかったことや課題点も山積みですが、実行委員一同、全力を賭していく所存です。
ご来場の皆さま、本当にありがとうございました。そして、この記事を見てくれた人が来年、滑川に訪れてくれることを願って。
<取材・文・撮影/田中啓悟>
【田中啓悟さん】
大阪府大阪市出身。大阪の専門学校を卒業後、WEBライターとしてデジタルゲーム関連の記事を執筆。その後、「訪れたことがない」という理由で富山県に移住し、地域おこし協力隊として、空き家バンクの運用・空き家の利活用をメインに、地域の魅力発信やイベントの企画に携わっている。