―[世界を旅した若き航海士が尾道の空き家でDIY生活/第3回目]―
普段は航海士として、1年の半分ほどを船に乗って日本中を回り、休暇中はWeb系のフリーランスとして働くナオ船長さん。育ちは埼玉ですが、移住したい場所を求めて辿りついたのは尾道でした。空き家を再生させて、新たな生活をスタートさせようとしているナオ船長さんの毎日をお届けします。
空き家再生の一歩は掃除から
1か月半もの間、物件を探し回りついに出会うことができたお気に入りの空き家。
しかし、「それでは、さっそくお引越し!」とはいきません。見つけられたのはいいですが、何と言っても10年以上も人が住んでいない空き家です。室内は蜘蛛の巣だらけで埃っぽく、とても人がすぐに住める状態ではありませんでした。なので、まずは空き家探しをしているときと同じく、ゲストハウスやシェアハウスを拠点にしながら掃除をすることに。
空き家には母屋と離れがあり、四畳半ほどの離れにはトイレと洗面所が備わっていました。近くの温泉をお風呂として利用すれば生活ができそうだと考えた僕は、まずは離れの掃除から着手する作戦にでました。
掃除機をかけて床や壁を拭き掃除し、最後にバルサンを焚いて離れの掃除はひとまず終了。丸3日かかりました。アドレスホッパーであった僕の荷物はリュック1つだけです。寝袋もあるので寝具の用意も必要なく、すぐに引越しました。
空き家に移動して初めての夜。思ったよりも寒く、想像以上に静かすぎるのが印象的でした。掃除で疲れているにも関わらず、ドキドキでなかなか眠れません。やっとうとうとし始めたころに、母屋の方で物音がして目が覚めました。恐る恐る音のする方へ行ってみると、猫の親子が目を光らせながらこっちを向いていました。猫に癒されつつその日は就寝。
翌日も同じ猫に遭遇したので、おそらくここに住み着いていたようです。
離れに拠点を移したタイミングでご近所さんへの挨拶回りに。隣人はもちろん、近くのお寺さんにも挨拶に行きました。みなさん口を揃えて「人が住まないとどんどん家は悪くなってしまうから、住んでくれてよかった」と喜んでくれました。
空き家再生の手順が分からなかった僕は、自身の空き家掃除もやりつつ、ほかの人の空き家掃除や修繕の手伝いに行くことにしました。そこで修繕や木材の取り寄せ方、フローリングの貼り方、その他DIYに関することなど、さまざまな情報を得ることに。また、手伝ったお礼に晩御飯をみんなで囲んだりと、徐々に地元の人や移住者との繋がりができていきました。
一番近いホームセンターは島にある⁉ 買い物は船に乗って向島へ
母屋の掃除を始めるべく、道具を揃えようとホームセンターの場所を調べてみました。すると、一番近いお店が対岸にある向島(むかいしま)だったのです。そこまでは船で行かなければなりません。
尾道〜向島間は、日本一短い船旅としても有名で、その時間はたったの4分です。5〜10分間隔で運行しており、大人100円子供50円。自転車とバイクはなんとプラス10円です。朝は学生が向島から渡船に乗って本州側にある学校に通ったりと、地元の人たちの生活に欠かせない交通手段となっています。
この日常的に船に乗るという生活は、船乗りの自分にとって尾道をさらに好きになる理由となりました。
次に家から一番近い食品売り場を調べてみると、商店街にある個人商店でした。少し足を伸ばせば大型スーパーがありますが、僕は極力、個人商店でモノを買うようにしています。理由は商店街の活性化です。
さまざまな土地で住むように旅をしていた僕は、あることに気づきました。それはチェーン店が多いと、どこに行っても同じような街並みになってしまうこと。
チェーン店がほとんどなく、商店街がここまで栄えている尾道はとても珍しい街。日曜日や祝日にはよくイベントもあり多くの人で賑わいます。だからこそ、尾道の今の風景を守りたいと思いました。
使わない物は必要としている人のもとへ。モノの循環は人を繋げる
母屋の掃除中は自炊ができず、外食をしたり商店街のお店でお弁当を買ったりしていました。僕の住む古民家のお風呂は電気で沸かすエコキュートだったので、母屋に住めるようになったら調理にもガスは使用せず、IHコンロにしようと考えていました。
このことを空き家探しの間にお世話になった友人に話すと「そういえば知り合いがIHをもらってくれる人を探していたよ」との情報をくれました。ここでまた尾道でのあったかさを実感しました。
後日、友人に教えてもらった人と連絡をとり、IHだけでなく机と椅子もいただきました。その人はお店をやっていたので、それからときどき行くようになりました。この循環はとても気持ちのいいものですよね。モノの循環は人と人とを繋げると感じました。
次回も引き続き、一筋縄ではいかない空き家掃除や修繕の日々について書いていきたいと思います。
―[世界を旅した若き航海士が尾道の空き家でDIY生活 第3回目]―
ナオ船長さん
コーヒーをこよなく愛する航海士兼Web系フリーランス。世界30か国を旅したのち、尾道に拠点を置く。空き家歴10年以上の古民家を自身で再生し「好きを追求する大人の遊び場」づくりを行うなど、さまざまな活動に挑戦中。