―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(17)]―
東京生まれ東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチのシェフである夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落で、忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。
自家製お茶のつくり方。蒸してもんでを繰り返して水分を抜く
山奥の限界集落で、今の時期にしなければならない恒例の作業といえば、毎日の畑の作業、週末のお店の準備や営業とは別に…、茶葉を摘んでのお茶づくりです。
お茶を自分でつくるなんて、産山村に移住するまでは考えたこともないし、もちろんやったこともない。最初は「へぇーお茶って、自分でつくれるんだー!」と思いましたが、今ではつくることもいれることも楽しく、もちろんおいしいので毎年恒例の作業となりました。
最初のキッカケは、「もう摘まないから好きに摘んでー!」と、お隣のお母さんから言われたことでした。隣家の生け垣がお茶の木だったのです。今思えば、生け垣がお茶の木、という時点で驚き。それも、1m、2mのような短さではない…。
摘み方は隣のお母さんから教わり、蒸すための釜などはもってなかったので、最初はレンジで蒸して、フライパンで乾燥させる方法でつくってみました。
初めてのことだったので、ぜいたくにも本当に新芽の部分だけを摘んでつくってみました。ちなみに、緑茶のときは新芽を摘み、紅茶は二番茶が向いているそうです。
つくり方は「簡単レシピ」「お茶づくり」で検索して調べました。
1 まずはレンジでホカホカに蒸します
2 蒸した茶葉を熱いうちにまな板にこするようにもみます
3 それをまたレンジでホカホカに蒸して、もんで、蒸して、もんで、を10セット以上繰り返します
繰り返し行うことで茶葉の水分を出していくのです。
熱々の茶葉をもむので、額からは汗がたれ、手のひらは真っ赤になります。つい「あっつーい!!」と独り言が出てしまうほど。
蒸して揉んで茶葉の水分を抜き、最後はフライパンでこげないように乾燥させます。そうやって奮闘しながらつくった自家製のお茶。初めて飲んだときは…、かなりガッカリしました。大大ガッカリです。
お茶の色も全然出なくて、ほとんどお湯色でお茶? という見た目。でも案外、おいしいかも、と期待して飲んでみたら…。味も薄~いと思いました。あんなに苦労して熱いって叫びながらつくったのに、しょんぼりでした。
ところが、そのお茶ポットをそのまま放置し15分くらい時間をおいてから飲んだら…、甘い! おいしい!となったので、びっくり。
それからは自家製のお茶を飲むときは、お湯を入れてから時間をおいて飲むことに。なんとも言えない甘味と優しい香りがします。きちんと乾燥させると何年も保存でき、しかも年月を経たほうがおいしいと聞いたので、2017、2018、2019と年ごとに缶を分けて保存し楽しんでいます。
紅茶のつくり方。茶葉を発酵させ、乾燥させる
庭に植えてある真っ白なカラーの花が咲くころに、茶葉摘みをします。今年は、去年から始めた紅茶をまたつくる予定です。緑茶と同じ茶葉、つまりお隣さんの生け垣の茶葉からつくる和紅茶! 苦味や渋味が少なく、優しい飲み心地の紅茶は、海外産の紅茶とはまったく違う味わい。
作業も緑茶とは違います。「あっつーい!」と叫びながら蒸す工程はなく、ひたすらもみながら水分を出して発酵させ乾燥させると、和紅茶の完成となります。
正式には発酵器などを使いますが、手軽にやる場合は湿らせたクッキングペーパーなどで茶葉をくるみビニール袋に入れ、25℃くらいをキープさせれば発酵します。室温が25℃以上あれば、もんでいる間にもどんどん発酵して緑色の葉が赤くなっていきます。
最後は発酵を止めるために熱を加えます。産山はシイタケ栽培が盛んなので、シイタケ乾燥機をもっている方はその乾燥機でやっているようです。わが家は乾燥機がないので、再びフライパンで! 天気がよくカラッとしていれば、天日干しで。ただし天日干しの場合は、機械乾燥よりも時間がかかり発酵が進みすぎます。なので、一歩手前の発酵で、天日干しに移行します。
とは言えまだまだ初心者なので、発酵とそれを止める乾燥のタイミングなど実験的ですが、それでも茶葉が発酵して、段々といい香りがしてくるのを体験するだけでも楽しい気分になります。
「つまらんですよ」。お年寄りがお茶を摘まなくなった理由
お茶や和紅茶だけでなく、ハーブティーもつくっています。種をまいて育てるジャーマンカモミールは、白くて可憐な花が咲いたら、摘んで乾燥させます。カモミールティーはリラックス効果があり、夜に飲むナイトティーとも言われていますが、ヨーロッパでは薬草茶としてかぜや下痢にも効果があるとされているそうです。小さくてかわいい花なのに、植物がもつチカラってすごい。
そんな風に和紅茶やお茶づくりのおもしろさを知ると「あ~あそこの木もお茶の木だなー」とか「ここのお茶の木は誰も摘む人いないんだな」など、お茶の木が気になるようになりました。
以前は、ちゃんと摘んでいて、ある程度の量の茶葉があれば、お茶屋さんが製茶してくれたようです。では、どうして摘まれないお茶の木が増えたのか。
「昔はそりゃ~皆で摘んで製茶に出したとですよ。それを1年で、家族で飲んでしまってたですよ。今は家族も減って、冠婚葬祭で貰うお茶の量でも余るくらいですよ。つまらんですよ」
村の年配の方が、茶葉を摘まない理由をつぶやいていたことを思い出します。
―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし]―
折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手おもちゃメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストラン「Asoうぶやまキュッフェ」を営んでいる。