―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(18)]―
東京生まれ東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチのシェフである夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落で、忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。
ハチの羽音が聞こえない。今年の梅は不作?
家の周りに植えてあったさまざまな植物。食べられる植物のなかでも毎年楽しみにしているのが2本の梅の木です。移住してから毎年収穫し、さまざまな保存食に大活躍で、実がなるかならないかが分かる頃からドキドキしながら待っています。
まずは、初春とは名ばかりの寒い時期に、きれいなたくさんの白い花を咲かせます。花には虫がたくさん寄ってきてブンブンとにぎやか。ミツバチたちが蜜を集めるついでに、自然に受粉作業をしてくれます。
そして、そんな時期に吹く少し強めの風にハラハラひらひらと散る梅の花びらは、雪のようでもあり、とても美しくすてきだなーと見ほれてしまいます(車などに貼りついて掃除が大変ですが…)。
暖冬だったせいか、今年は花の咲いた時期がいつもよりも早く、ハチなどが活発に飛び回るよりも先に、花が散ってしまったような気がしました。いつものブンブン飛び回るハチの羽音が全然聞こえなかったなぁ…。
そんなこともあり受粉がうまくいかずに「今年は梅の実が不作の年になるか!?」と勝手に思っていました。
梅雨の季節の梅仕事。さまざまな保存食に変身
ところが、私の心配をよそにたくさんの大きな梅の実をつけてくれました。しかも! 例年以上に1粒1粒の粒が大きい!! 不思議です。
梅は梅雨の雨で大きくなるらしいので、梅雨の前でなく梅雨の中休みに収穫しました。そしてつくるものによっては室内で1日~2日追熟させます。熟した梅は黄色く色づき、とてもいい香りを家中に漂わせます。
毎年15kg以上採れる梅は、さまざまな保存食に変身します。梅みそ、梅じょうゆ、梅ジャム、梅シロップ、梅酒、梅干しなど。わが家的に人気がなく使う頻度が少なかったものは、翌年は仕込みを減らしたりして調整します。
梅じょうゆは酸味と香りがしょうゆに移り、暑い夏に食べたくなるさっぱりとしたお料理に合います。つるつると食べるそうめんのツユに入れてもおいしいですね! また梅じょうゆに漬かった梅は手羽を煮たりするときに入れるといい味になったりします。
夏バテ予防や脱水症状の予防には梅シロップを水や炭酸水で割り、氷を入れて飲みます。さわやかな酸味とフルーティな香りが、大量に汗をかいた畑作業の疲れと渇きをいやしてくれます。
最近は自家製の梅酒のおいしさに遅ればせながらも目覚めました。私自身甘いものがあまり得意ではないので…梅酒は甘ったるい!という先入観もあり、つくってみたものの飲んでいなかったのです。
あるとき、ふと自家製梅酒を飲んでみたら…とてもおいしく…それ以来、ハマってしまいましたー!! なので、たっぷり飲めるように今年は梅酒を多めに仕込む予定です。
わが家の梅酒は氷砂糖ではなくサトウキビからつくられる花見糖で仕込むので、アンバーカラーの梅酒に仕上がります。とくに難しい工程はないのですが、ひとつひとつ丁寧に梅のヘタを取り、リカーでふいて漬け込みます。
植物栽培は苦手だけど、食べられるものならがんばれる
どの梅仕事もひとつひとつは難しくはなく、つくりやすいのですが、わが家の場合は量と仕込む種類の多さで、まとまった時間が必要になってきます。畑作業と天気とにらめっこしながら、いつ作業をしようかと考える梅雨の日々です。
20代以降、産山に来るまでの私はというと、「育てるの簡単だよ~」とプレゼントしていただいた多肉植物を毎回枯らしてしまうほど、植物のお世話が苦手でした。
そんな私がなぜ今は広い畑のたくさんのお野菜の苗の世話ができるのかな??と、まじめに考えてみた結果…どうやら私は食べられる植物とか、それを食べたときの味を想像できたりすると、俄然やる気がでて面倒な作業もこなせるのだ! と、我ながら食いしん坊な答えにたどり着きました。
大豆を蒸してみそをつくったり、茶葉を摘んでのお茶づくりをしたり、梅をさまざまな保存食にしたり。これも皆、自分が食べたいがためにやっているだけなんだと、梅仕事を通して深く深く実感したのでした。
折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手おもちゃメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストラン「Asoうぶやまキュッフェ」を営んでいる。