日本一の湧出量。別府温泉に「地獄温泉ミュージアム」が誕生

大分県を代表する温泉観光都市「別府温泉」。2022年12月にオープンした「地獄温泉ミュージアム」は、その歴史や知識を地球規模で理解できる謎解きや仕かけが満載。温泉の魅力とセットでリポートします。

別府温泉は世界でも有数の地

別府温泉

 温泉に入ると、カチコチにこり固まった心と体、そして頭までもが、ゆるゆるとほぐれていく幸せな気分になります。温泉には、地球の成分やその土地がもつ自然のエネルギーがたっぷり溶け込み、私たちにたくさんのパワーを与えてくれます。

 なかでも、日本一の温泉といわれるのが、大分県の別府温泉です。羽田から大分まで飛行機で1時間40分、大分空港からは別府温泉まで距離にして40km、筆者も「人生で必ず一度は訪れたい!」と思っていた地へ行ってきました。

別府温泉の夕景

 なぜ別府温泉は日本一といわれるのでしょうか? その理由は、湧出しているお湯の量と、地中からお湯がわき出ている場所(源泉)の数です。別府市内には、なんと約2850か所もの源泉があり、全国の源泉総数のおよそ10%が集まっています。日本のみならず、世界でも有数の規模を誇る温泉地なのです。

 別府温泉は8つの温泉郷で構成され、「別府八湯」(べっぷはっとう)と呼ばれます。8つの温泉は、別府、浜脇、観海寺、堀田、明礬(みょうばん)、鉄輪(かんなわ)、柴石、亀川。8つのなかでも絶対に外せないのは、「地獄めぐり」の中心地「鉄輪温泉」です。

 鉄輪温泉、明礬地区の「別府の湯けむり・温泉地景観」は、国重要文化的景観に選定されています。1000年以上も昔から噴気・熱泥・熱湯などが噴出していたことが「豊後風土記」に記され、近寄ることのできない忌み嫌われた土地であったといわれています。

 現在も江戸時代の旅籠・木賃宿に起源をもつ宿泊施設が旅館や貸間として利用され、街のあちらこちらから幾筋もの湯けむりがホワホワと立ちのぼります。地元では景観計画により景観全体の保護を図り、住民の日々の生活と景観の維持との両立を目指しています。

地獄蒸し料理

 別府温泉では江戸時代から日常的につくられている「地獄蒸し料理」が食べられます。食材をざるにのせ、摂氏98℃、100%地熱エネルギーの温泉噴気を利用。塩分を含む温泉蒸気で一気に蒸し上げるので、うま味が凝縮し、食材本来の風味が閉じ込められる伝統の調理法です。
 石畳の美しい町並みを浴衣で散策したり、足湯をしたり、地獄蒸しを食べたり、地獄めぐりをしたりと、日本古来の温泉の癒し文化を別府では存分に楽しめます。

学術的にも価値ある多彩な泉質

多彩な泉質

 別府温泉の魅力は、景観もさることながら、その泉質の豊かさです。塩化物泉や炭酸水素塩泉、含鉄泉など、さまざまな泉質が楽しめます。温泉成分が皮膚を通して体内に吸収され、体の機能を高める化学的効果や水圧・浮力、清浄作用、温熱作用など、自分の症状に合わせて温泉を選べるのも魅力です。

 鉄輪温泉には、含鉄泉や単純温泉、塩化物泉があります。たとえば含鉄泉なら、適応症は疲労回復と健康増進です。風水では、含鉄泉は金運を食い荒す毒素のデトックス作用があり、金運がアップするともいわれています。

 地獄地帯には、美しいコバルトブルー色をした「海地獄」や噴気まで真っ赤な「血の池地獄」、灰色の熱泥がボコボコと煮えたぎる「鬼石坊主地獄」ほか、「かまど地獄」「竜巻地獄」「鬼山地獄」「白池地獄」と7つの地獄があります。

 7つのうち「海」「血の池」「白池」「竜巻」の4つの地獄は、独特で多彩な色彩・形態をもち、噴出する鑑賞上の価値と、名所的・学術的価値が高い源泉として、平成21年に国指定名勝となりました。

温泉の理解が深まる「地獄温泉ミュージアム」

地獄温泉ミュージアム

 温泉の不思議や歴史をまるごと体験できる施設が、別府温泉の地獄地帯に2022年12月1日にオープンしました。その名も体験型アカデミック・エンターテインメント施設「地獄温泉ミュージアム」です。

「どうやって温泉ができるの?」「泉質ごとにどのような適応症があるの?」など、館内を探検しながら温泉の謎を解き明かしていきます。視覚的な仕かけも鮮やかで、自分が温泉になったような気分に浸れます。迷路やスタンプラリーも充実し、子どもと一緒に自由研究のテーマとして訪れるのにもぴったりのミュージアムです。

 たとえば謎解きの1つに、「空から雨が降り、地中に染み込み、温泉水として生成されるまで、どれくらいの時間がかかるのか?」。答えは50年。なんと半世紀もの時間をかけて、雨水は温泉となります。しかも、別府では温泉として湧き出る割合は、たった16%です。ミュージアムでは50年もの歳月をかけて温泉が生まれるまでを、地球の神秘のジャーニーとして、自分自身で段階ごとに体験できます。

地獄ミュージアムの内部

 シーン1から4まで分かれた構成で、「シーン1」では、雨水が地上に降り注ぎ、地面に染み込んで行く様子を床面プロジェクションマッピングで観ることができます。「シーン2」では、複雑な地中の世界を進みながら、様々な温泉成分と融合。50年もの歳月をかけて貴重な温泉水になっていく様子を、入り組んだ迷路とアート性の高い演出で体感できます。「シーン3」では、泉源の近くで暮らしてきたからこそ生まれた鉄輪における地獄の文化、さらに外部からたくさんの人々が訪れ大転換を果たしてきた歴史を、湯場の中にいるようなシアターで辿ります。

50CAFE

 壮大な地球規模の体験をしたあとは、1階にある本格志向の飲食ブース「50CAFE」へ。スペシャリティコーヒーのパイオニア、葛西氏による100%スペシャリティコーヒーのみの「季節のオリジナルブレンド」(650円)や無添加オリジナル「地獄温泉ヒナタソーセージ」(550円)など、こだわりの生産者や実力派シェフたちのメニューが充実していて、湯けむりを眺めながら、ゆっくりと流れる時間を楽しめます。

 別府温泉で温泉に浸かり、「地獄温泉ミュージアム」で地球の神秘を感じると、温泉が、そして地球が、自分自身が、今までよりもっともっと愛おしくなるから不思議です。寒さが厳しくなるこれからの時期、身も心も温泉にどっぷり浸かりに行ってみてはいかがでしょう。

<取材・文/脇谷美佳子>

脇谷 美佳子(わきや・みかこ)さん
東京都狛江市在住。秋田県湯沢市出身のフリーの「おばこ」ライター(おばこ=娘っこ)。2児の母。15年ほど前から、みそづくりと梅干しづくりを毎年行っている。好物は、秋田名物のハタハタのぶりっこ(たまご)、稲庭うどん、いぶりがっこ、きりたんぽ鍋、石孫のみそ。