美しい風景とアクセスのよさで人気スポットになった沖縄・竹富島。ここでは観光客によるポイ捨てや海洋ごみに対応するため、入島料を採用しています。きれいな島を守るための試みを現地で取材しました。
美しい景色を守り続ける島民の「うつぐみの心」
竹富島は沖縄本島から南西へ約350kmにある小さな島です。東京・羽田からは石垣島へ直行便で約3時間半、高速船に乗り継いで15分で到着します。そのアクセスの良さから日帰りで訪れる人も多いそう。
島に着いたら、まずはレンタサイクルショップで自転車を借りるのがおすすめ。島の中心部を一周する道路の長さは約3.4kmですから、自転車1台あればどこへでも移動できます。
中心部にある集落は、国の重要伝統的建造物保存地区に指定されています。赤瓦屋根の民家が立ち並び、珊瑚石を積み上げたグック(石積)が両脇に続く道には白砂が敷きつめられ、色鮮やかなブーゲンビリアが咲き乱れます。
民家の白砂の道を観光用水牛車がのんびり、のしのし歩いていきます。まるで時間が止まったような懐かしい風景です。仕事や時間に追われて毎日慌ただしく生きている自分に、美しい風景と屋根瓦の上のシーサーが「いつもがんばっているね、おつかれさま」とやさしく微笑みかけているようです。
そんな竹富島の朝は、白砂を掃く掃除の音から始まります。住人がみな自主的に毎朝、竹ぼうきできれいに掃き清めるのです。夜はその道が、月明かりで白くほんわり明るくなります。島の美観は約350人の島民が守っているのです。
これがまさに、竹富に昔から伝わる「うつぐみの心」という基本精神で、一致協力の心がけです。「うつぐみ」とは、500年前の島の偉人で守り神である西塘(にしとう)様の遺訓「かしくさや うつぐみどぅまさる」からきており、他人を大切に思う気持ち、親や御先祖様を尊ぶ気持ち、みんなで協力することこそ優れて賢いことだという意味です。
観光客が担うべき責任と入島料
2013年に石垣空港への直行便就航によりマスツーリズムの波が押し寄せてから、現在では年間50万人が竹富島を訪れます。観光業が盛況になる一方で、集落内のポイ捨てによるペットボトルの処理が大きな問題になっています。海流の影響で外国から漂着する海洋ゴミも増えているそうです。
美しい宝の島、竹富島を守りたいーー。島のために私たち観光客ができることは、ゴミを捨てない、持ち帰るのは当然のこと、ぜひ知ってほしいのは「入島料(300円)」の存在です。支払いは任意ですが、この入島料によって、竹富島の景観を守ることに貢献できます。
入島料は別名「うつぐみチケット」といわれています。竹富島内各所で購入でき、そのお金は主に保全活動に必要な土地取得費を含む自然環境保全活動費や自然環境トラスト事業に充当されます。2015年に施行された「地域自然資産法」に基づく取り組みで、全国初のケースだそうです。
トラスト事業とは、大切な自然環境という資産を、寄付や買い取りなど、島民自身の手で入手し、守っていく活動です。
竹富島を訪れる年間50万人の観光客すべての人が「うつぐみチケット」を支払うと、1億5千万円という大きな金額になります。300円で竹富島の素晴らしい町並みと星空、伝統文化などを体験できると思えば、とてつもなくコスパのいい旅です。
漂流ゴミをキーホルダーに
「入島料」には、手づくりの返礼品も付いてきます。筆者はその返礼品を製作するワークショップに参加しました。環境保全・トラスト事業を行う「竹富島地域自然資産財団」のラボで、海洋プラスチック(海洋を漂うプラスチックごみ)からウミガメ型のオリジナルキーホルダーをつくります。
砂や海藻などの汚れを落としたペットボトルのふたを細かく切り刻んで、専用の射出成型機に流し込みます。プラスチックの種類によって色が微妙に変化し、どんな色に仕上がるのか完成するまでわかりません。
完成した亀を手に取ると、にわか「てーどぅんひと」(竹富人)として、竹富島の美観保全に貢献した「うつぐみ気分」になりました。
売らない、汚さない、乱さない、壊さない、そして生かす
島を守る意識が高まったのは、沖縄復帰前の1970年頃。島の土地が買い占められるようになったことが大きな要因でした。その後、1986年に「竹富島憲章」が制定され、翌年には町並みの保存地区が選定されて、修理修景事業が開始。
島の住民は、竹富島憲章による独自の約束事「売らない・汚さない・乱さない・壊さない」を基本理念に、土地を守り、集落の景観を保全し、歌・芸能・祭りなどの伝統文化を資源にして、自力で観光業を営んできました。そして憲章制定30周年を機に、祖先から受け継いだ美しい町並みを守って「生かす」という項目が加えられました。
日本で環境庁により、はじめて「エコツーリズム」という言葉が使われたのは1990年といわれていますが、竹富島ではそれよりもっと早い段階で、自然環境や歴史文化など地域固有の魅力を観光客に伝え、竹富島の価値と大切さを理解し、保全することを目指していたのです。その精神に、私たち人間が自然の恵みを生かしながら持続可能な社会を実現する答えのひとつが、「うつぐみの心」、一致協力して周りを大切に尊ぶ気持ちなのだと感動しました。
道をぶらぶら散策していると、庭先から住民のアッチー(おじいちゃん)が筆者に声をかけてくれ、その美しい花々とシーサーの写真を撮影させてくれました。竹富島の素晴らしい自然と島民のみなさんの温かさに、心からお礼を述べたいです。
<取材・文/脇谷美佳子>
脇谷 美佳子(わきや・みかこ)さん
東京都狛江市在住。秋田県湯沢市出身のフリーの「おばこ」ライター(おばこ=娘っこ)。二児の母。15年ほど前から、みそづくりと梅干しづくりを毎年行っている。好物は、秋田名物のハタハタのぶりっこ(たまご)、稲庭うどん、いぶりがっこ、きりたんぽ鍋、石孫のみそ。