富士山の山梨県側(北西面)のふもと一帯に広がる森、「青木ヶ原樹海」が冒険スポットとして注目されています。樹海の中の青く冷たい世界「溶岩洞穴」とともに、人気の理由をリポートします。
青木ヶ原樹海にまつわる、さまざまな都市伝説
青木ヶ原樹海は、世界文化遺産に登録されている、約1200年前にできた貴重な原生林です。山梨県富士河口湖町と鳴沢村に16km四方に渡ってまたがり、その広さは東京ドーム約642個分。
青木ヶ原樹海の地面を覆う溶岩は、平安時代の初期に起きた富士山の二大噴火のひとつ「貞観(じょうがん)の大噴火」で流れ出たもの。溶岩上わずか数cmに、樹木の葉や数十種類の苔が長年蓄積し、それらの養分と水分を吸収して、樹齢300年のヒノキやツガなどの多様な針葉樹林が生い茂ります。
根っこは横へ横へと手を広げるように長く伸び、血管のように張り巡らされた根の上には苔がむし、世界でも類を見ない神秘的な世界が広がっています。
樹海がもつこの不思議さのせいか、さまざまな都市伝説が飛び交います。たとえば、「森の中に分け入ると、方位磁針がぐるぐる回る」「一度迷い込めば二度と出られない」などなど。本当なのでしょうか?
森の中に入ってみると「方位磁針がぐるぐる回る」というのは、まったくのウソでした。富士山の溶岩のほとんどが磁鉄鉱(じてっこう)という磁力を帯びた「玄武岩」が含まれるので、溶岩に近づけると針がぶれることもありますが、ぐるぐる回ることはありません。
「二度と出られない」というのも、誇張でした。樹海の中にはいくつもの整備された散策道があり、「富岳風穴」や「鳴沢氷穴」「西湖コウモリ穴」などから、樹海の中へと入ることができます。
観光客用の遊歩道は、安全に自然を楽しめるので、小さい子ども連れの家族も世界中からたくさん訪れていました。ただし、道を外れると、本当に迷子になるので注意は必要です。
散策コースを案内する立て看板もあるので、個人での散策も十分できます。樹海の多様な動植物や歴史、富士山や富士五湖などについて詳しく知るなら、1人500円(最低催行人数2名から)で、富士河口湖町公認ネイチャーガイドに案内してもらうこともできます。
真夏でも氷柱が溶けない「鳴沢氷穴」
青木ヶ原樹海は、溶岩洞穴(ようがんどうけつ)という火山地形がある極めて貴重な地域です。溶岩洞穴は、噴火によって流れ出た約1200℃の溶岩が空気に触れて急速に冷えて固まり、固まった表面を高温の溶岩が破って次々と流れ出て内部に空洞ができることで、つくられます。洞穴近くにある「山梨県富士山科学研究所」では、この過程を詳しく学ぶことができます。
青木ヶ原樹海には洞穴が100以上も存在し、世界的にもまれな場所なのです。なかでもひとつだけ訪れるなら、自然の起伏に富む、竪穴型洞窟「鳴沢氷穴」がおすすめ。昭和4(1929)年に文部省の天然記念物の指定を受け、世界中から観光客が訪れています。
鳴沢氷穴は樹海の東の入口にあり、長さ約150m、幅最大11m、高さ最大3.6mの洞穴です。氷穴の途中には、冬季に形成される「氷柱」があります。取材の日は真夏なのに洞穴の中は0℃! 涼しいどころか凍りそうなくらい寒く、氷は1年中、溶けません。気温は年間平均3℃なので、明治時代には蚕の卵の貯蔵庫、農産物の保管庫として地域の人々に利用されていました。
薄暗い洞穴の中を歩くと、「地獄穴」というドキッとさせられるような看板が。江ノ島(神奈川県)の洞穴まで続いているという伝説も信じてしまう雰囲気で、思わず足元を確認してしまいました。
グルメと温泉も堪能できる青木ヶ原樹海の旅
樹海を訪れたら、ぜひ旅の駅「kawaguchiko base」に立ち寄りましょう。山梨の地元農産物など山梨名物のお土産を購入できます。今回は完熟桃がアウトレット商品として6個で1000円(税込)と超お買い得でした。ランチの種類も豊富で、筆者は甲州牛ローストビーフ丼をチョイス。季節によってメニューが異なるため、行ったタイミングでどんなおいしいものに出合えるのか楽しみが広がります。
河口湖畔に広がる樹木と富士山を眺められる絶景スポット、大石公園に隣接する「富士大石ハナテラス」では、桃を丸ごと1個使った「季節のフルーツパフェ 桃」(1672円)に舌づつみを打ちました。
旅の締めくくりにひと汗を流すながら、河口湖インターチェンジまで車で10分のところにある「富士眺望の湯 ゆらり」。まるで銭湯のリアル書き割り絵のような富士山を眺めながら、手足を伸ばして露天風呂につかれます。
日本が世界に誇る富士山。遠くからの眺めも素晴らしいですが、山梨県に入って河口湖周辺から見ると、息をのむ迫力と美しさがあります。200年前、日本初の「旅の大ブーム」の火つけ役となった「東海道中膝栗毛」の弥次さん喜多さんも、富士山を望みながら洞穴を堪能したのでしょうか。
都市伝説に惑わされずに体験すれば、多種多様な樹海の世界と溶岩洞穴の冒険、山梨の豊かな産直品やグルメ、ぜいたくな景色を見ながらの温泉で、心も体も満足できること間違いなしの青木ヶ原樹海ツアー、ぜひ一度、お試しあれ。
<取材・文/脇谷美佳子>
<一部写真提供/富士観光開発株式会社>
脇谷 美佳子(わきや・みかこ)さん
東京都狛江市在住。秋田県湯沢市出身のフリーの「おばこ」ライター(おばこ=娘っこ)。2児の母。15年ほど前から、みそづくりと梅干しづくりを毎年行っている。好物は、秋田名物のハタハタのぶりっこ(たまご)、稲庭うどん、いぶりがっこ、きりたんぽ鍋、石孫のみそ。