桃やブドウ、桃太郎伝説で有名な岡山県は、年間を通じて日照時間が長く「晴れの国」と呼ばれています。今回は岡山駅を起点にせとうちエリアを走る観光列車を楽しみながら、備前焼ろくろ体験にご当地グルメなど、岡山の魅力を堪能する旅をレポートします。
アートな観光列車「La Malle de Bois(ラ・マル・ド・ボァ)」
一度は体験してみたい観光列車の旅。今回乗車した「La Malle de Boi(ラ・マル・ド・ボァ)」は2016年から広島県、香川県へ、2021年には岡山県備前長船(びぜんおさふね)へ運行を始めたJR西日本の観光列車で、せとうちエリアを満喫できる列車として人気です。
行先別に「ラ・マル せとうち」、「ラ・マル 備前長船」、「ラ・マル ことひら」、「ラ・マル しまなみ」の4系統があり、運賃は行先により片道(大人)1200円から最大2520円、自転車をそのまま積み込めるサイクルスペース(要予約)も完備しています。
筆者は「ラ・マル 備前長船」に乗り込みました。停車駅は、鎌倉時代より日本刀の産地として栄えた「長船」、※日本六古窯(にほんろっこよう)のひとつである備前焼の里「伊部(いんべ)」、瀬戸内海に面して新鮮な魚介類の直売が行われている「日生(ひなせ)」です。
終点の「日生」はカキの養殖が有名で、ご当地名物「カキオコ」(カキのお好み焼き)と「カキフライのソフトクリーム」が気になります。
※日本六古窯:日本の代表的な6つの窯(瀬戸、越前、常滑、信楽、丹波、備前)の総称。
車内はホテルのような高級感あふれるフローリングデッキと現代アート作家の作品展示、そしてご当地の優れものを集めた車内販売カウンターなど、スペシャルな仕様。
車窓からは美しい山々や田園風景、そして海が望めます。車内販売の「白桃ネクター」(450円)も購入。完熟した岡山県産清水白桃をふんだんに使用したこだわりのネクターで、濃厚な味わいと桃の果実感がたまりません。
「La Malle de Boi」はフランス語で「木製の旅行かばん」という意味。その名のとおり、海、山、アート、歴史、グルメなど、魅力が詰め込まれた列車です。
備前焼の里でろくろ体験
最初に降りたのは備前焼の産地、備前市の伊部(いんべ)駅です。駅から歩いてすぐの場所に、備前焼作家の窯元や陶芸店が集中しています。駅舎に隣接して「備前焼伝統産業会館」があり、ここでは協同組合備前焼陶友会員の作家さんと窯元さんの作品を展示即売しています。2023年は10/14(土)、15(日)に伊部駅周辺で「備前焼まつり」が開催されました。
備前焼は、「日本六古窯」のなかでもっとも古い焼き物です。釉薬(うわぐすり)を使わず、約1200〜1300℃の高温で2週間も焚き続けるつくり方で、堅くて割れにくく、実用的で耐久性の高い日用雑器として生産が始まりました。絵つけをせず土そのものの風合いがあり、使えば使うほどに味わいが増すのも魅力です。
そのルーツは古墳時代。はるか1000年も昔から絶えることなく歴史が築かれ、やがて堺や京都の茶人に認められ、桃山時代には茶器の名器が多く焼かれました。その後、金重陶陽(かねしげとうよう)など5人の人間国宝も生まれました。
「備前焼伝統産業会館」では、土・日・祝日は備前焼作家の指導を受けながら作陶土ひねり体験ができます。今回は、電動ろくろ体験ができる「夢幻庵備前工房」へ行ってきました。手を水でしっかり濡らし、電動ろくろを回しながら土を何度もこねあげ、家族と囲む食卓で使うイメージをしながら成形。窯元によって土のブレンド方法が違うので、その土の性質で仕上がりがひとつひとつ異なるそう。窯への詰め方や窯の温度の変化、焼成時の灰や炭でも異なる模様が生み出されます。
土に触れていると、日ごろの雑事を忘れ、体の中から癒やされていくのを感じます。きちんと形になるのかまったく自信がなかったのですが、職人さんがサポートしてくれたので、初心者でも職人級の仕上がりになりました。どんなふうに焼き上がるか、数か月後の到着が楽しみです。
「夢幻庵備前工房」はカフェとギャラリーが併設され、備前焼の器で本格的なスイーツとコーヒーを楽しめます。筆者は自分のための土産として備前焼コーヒードリッパーを購入しました。毎日、おいしいコーヒータイムを楽しんでいます。
瀬戸内海の漁師町「日生」でカキざんまい
カキといえば広島や三陸、北海道など全国的に有名な産地がありますが、「ラ・マル 備前長船」の終点となる備前市日生町は、昭和40年代からカキの養殖が盛んです。
カキは種つけから収穫まで通常2~3年かかりますが、日生の海は栄養分が豊富なため、出荷できる大きさまで、たった1年で成長します。1年ものの日生のカキは味が濃厚で、身に弾力があり、熱を加えても縮みにくいのが特徴です。
カキを使ったお好み焼き、「カキオコ」はカキ好きにはたまりません。広島とも大阪とも違う岡山オリジナルの味で、山盛りの千切りキャベツに生地をサッと混ぜ、鉄板に広げたら、新鮮なカキをたっぷりのせてじっくりと焼き上げます。外はこんがり、中はふんわり。カキのうま味とキャベツの甘味が感動的なおいしさでした。
そしてなんといっても忘れられない味が「カキフライソフトクリーム」! カキフライを差し込んだソフトクリームは、ソースをかけるとまるで濃厚なタルタルソースのようで、意外にもくせになる味わいでした。
日生のカキのシーズンは11月から3月中旬、まさにこれからが楽しみどきです。豪華な観光列車に揺られながら、目でも手でも舌でも味わう欲ばり旅、筆者は必ずまた、訪れたいと思います。
<取材・文/脇谷美佳子>
脇谷 美佳子(わきや・みかこ)さん
東京都狛江市在住。秋田県湯沢市出身のフリーの「おばこ」ライター(おばこ=娘っこ)。2児の母。15年ほど前から、みそづくりと梅干しづくりを毎年行っている。好物は、秋田名物のハタハタのぶりっこ(たまご)、稲庭うどん、いぶりがっこ、きりたんぽ鍋、石孫のみそ。