日本で唯一の熊本市「味噌天神」例大祭では350kgのみそを無料配布

熊本県には全国的にも珍しいみその神様をまつった神社があります。秋に開催される例大祭では、参拝客ひとりひとりに1kgもの県産みそを無料で配布。気になる例大祭の様子を取材してきました。

日本で唯一、みその神様をまつる神社

鳥居越しの味噌天神

 熊本県熊本市中央区にある通称「味噌天神宮」は日本で唯一、みその神様をまつっている神社です。毎年10月25日に行われる例大祭では、参拝者1人に対し県産みそ1kgを無料配布するのが恒例。例大祭のために300kgを超すみそが準備されるのは驚きです。

奉納されている味噌

 新型コロナウイルスの影響でしばらくストップしていましたが、今年は快晴の秋空のもと、4年ぶりにみその無料配布が行われるということで、朝からたくさんの参拝客で賑わっていました。

由来が書かれた立て札

 地域の人からは「味噌天神」と親しまれていますが、正式名称は「本村神社」(もとむらじんじゃ)。味噌天神と呼ばれるようになったのは奈良時代、713年に疫病が流行したとき、神薬の神「御祖天神(みそてんじん)」をまつったことが始まり。
 741年に建立された国分寺で、僧侶たちが毎朝毎夕みそ汁を飲むためにみそ蔵を建てましたが、ある年、大量のみそがが腐ってしまいました。困った僧侶たちが近くの「御祖天神」で「おいしいみそになりますように」と祈願すると、「境内のササを取り、みそおけの中に立てるとよい」と神のお告げがあり、そのとおりにしてみるとおいしいみそに。

境内の笹

 それからというもの、人々はおいしいみそをつくるために境内のササをもらいに来るようになり、「味噌天神」の愛称で伝えられるようになったそうです。今でも境内にはササが元気に繁っていました。

例大祭では県産のみそ300kg以上を無料配布

神事

 神事には宮総代をはじめ、熊本県みそ醤油工業協同組合の理事長、青年部会長、みそ健康づくり委員会の委員長、町内会長など地元を支える多くの方が参加し、五穀豊穣、無病息災を祈願。また、熊本県みそ醤油国業協同組合に加盟する43社から約350kgの麦みそや合わせみそが奉納されました。

味噌の配付

 神事が終わると、いよいよみその無料配布が始まります。配布するテントの前には、参拝客の行列。無料配布ではありますが、もらうためには神事が始まる2時間前、朝9時頃には神社へ来て整理券を受け取る必要があります。

引換券に並ぶ列

 筆者が当日朝9時頃に味噌天神に着くと、すでに鳥居の外まで行列ができていました。本気でみそがほしい方には、少し早めに行くことをおすすめします。

熊本県の味噌マップ

 無料配布のみそは、熊本県みそ醤油工業協同組合の加盟店26社から1人1袋(1kg)の麦みそや合わせみそで、配るのはみそ蔵やしょうゆ蔵の方々です。熊本県では麦みそを使うことが多いそうで、筆者も麦みそをいただきました。

谷川さん

 熊本県みそ醤油工業協同組合の橋本理事長は、「今年は多くの方に集まってもらい、みそを配付できてうれしい。もっともっとみそを使った料理を食べて健康になってもらいたい。そして、みその需要拡大につながるとありがたい」とおっしゃっていました。

 みそをもらった地域のみなさんも4年ぶりの無料配布をとても楽しみにしていたようで、「今年はみその無料配布がありとてもうれしい。毎日みそ汁を食べるので、たくさん使います」と笑顔で喜んでいました。

地元の紙芝居師が神社の由来を紹介

紙芝居

 境内では、初めての試みとして、昔懐かしい紙芝居のスタイルで味噌天神の由来が披露されていました。企画を考案したのは熊本県みそ醤油工業協同組合青年部会長の池嵜さんです。

「味噌天神は地域の方々から親しまれていますが、まだまだその由来を知らない方が多く、どうしたら知ってもらえるのかずっと考えていました」という池嵜さん。「神事が始まる前から多くの方が集まってお待たせするので、それならその待ち時間を使って味噌天神の由来を紹介しようと思いつきました」

 最初はパワーポイントなどでスライドショーをつくろうと考えたそうですが、それでは勉強色が強くなり楽しめない…。参拝客にはお年寄りも多いことから、紙芝居なら懐かしく楽しんでもらえて、小さな子どもにも分かりやすいのではと考えたそうです。

 依頼を受けたのは、熊本市内を中心に活動する紙芝居師、ぐれっちさん。由来を紙芝居にするのは難しく、例大祭前日夜まで手直しをしたそうです。当日披露された紙芝居は、ぐれっちさんの絵と軽快な語り口調に皆さん引き込まれていました。

味噌天神

 ほかにも例大祭の日は「御朱印」を境内の社務所でもらえるなど(普段は神社外に行く必要あり)、遠くからの参拝客にうれしいサービスもありました。味噌天神の御朱印があれば、いつもよりおいしいみそ料理がつくれるかもしれません。全国のみそ好きさんにぜひ、知ってほしいと思う神社です。

<取材・文/谷川美雪>