お城は修繕中こそおもしろい。滅多にできないレアな体験も

[ふるさと旅を10倍楽しくする!/第7回目]

観光ホスピタリティコンサルタントとして国内外のあらゆる地に足を運んできた石田宜久さん。そんな観光のプロが綴る「ふるさと旅を10倍楽しくする」方法とは? 日本各地で観光地となっている「城」。今回はそんな城巡りを最大限楽しむためのコツについてです。

熊本城
’16年の熊本地震にて損傷を受けたことにより、修繕工事が続く熊本城。その姿にも荘厳な佇まいがあり……

「そんなときだからこそ」を楽しむのも旅行の醍醐味

 日本の観光スポットで外せないのが「城」。明治の廃城令以降、次々と壊されてしまった城ですが、現存するものは重要文化財として保存されていたり、「その雄姿をもう一度」と修繕・復元され、地域のシンボル的存在として住民の方々に見守られていますよね。そんな城巡りを楽しみに旅行で訪れてみたものの、耐震工事や補強工事はもちろん、時代の節目に行われる大修繕工事によって、足場が組まれネットがかかり、せっかく行ったのに満足に見ることができない……なんてことがときに起きてしまうものです。でもそんなとき「なんだ、残念だ……」なんて思って帰ってしまってはもったいない。「そんなときだからこそ」を楽しむのも旅行だと、私は思っています。

 2016年4月に発生した熊本地震によって、多くの石垣が崩れ、重要文化財である櫓の倒壊、瓦が落ちるなどの甚大な被害に見舞われた熊本城。修復工事のため一部区域が立ち入り禁止になっていましたが、19年秋から徐々に立ち入り制限区域が解除され始め、21年の天守閣完全復旧、37年ごろの城域完全復旧を目指し工事が進められています。

そんな熊本城を、大天守修復工事中に見に行く機会がありました。確かに瓦が落ち、石垣が崩れていることもあり近づくことはできませんでしたし、中に入るなんてとてもできない状態でした。しかし、足場に覆われ非常に大きなクレーンに支えられ、小天守が浮いているようにも見えるこの光景はどこか「要塞」のような荘厳な姿でした。震災による被害が原因ではありますが、復旧工事を受けている姿もまさしく「今しか見られない雄姿」。私が訪れた際にも、多くの人々が1日でも早く元の姿に戻ることを祈りながら、カメラを構えていました。こうした際にも、スポットライトが当てられ、足場に囲まれた熊本城に対して、どこか「カッコいい」という感情を抱いていました。「今しか見ることができない」復旧途中の姿を、これを機に見に行ってみてはいかがでしょうか?

姫路城の天守閣を外から眺める貴重な機会も

姫路城
大規模修繕のため、素屋根ですっぽりと覆われた姫路城

 少し前の話になりますが、日本三大名城にも数えられる姫路城では2009年から15年にかけて「国宝姫路城大天守保存修理工事」、通称「平成の大修理」が行われました。写真のように大天守を丸ごと工事用の素屋根で覆われ、外からは城をまったく見ることができない期間があったのです。当時テレビなどでは、「せっかく来たのに見られないのが残念」「きれいになるのを待っています」といったコメントが聞かれました。ところが実際は見学が不可能になったわけではなく、この工事期間中だからこその大変貴重な体験ができたのです。「天空の白鷺」という名称で、修理見学施設が11年3月から14年1月までの約2年10カ月の間、開催されていました。

外壁
ちなみに、外壁に描かれているお城はほぼ実寸大だったそう

 8階建ての素屋根をエレベーターで登り、石垣、壁面、屋根の修理とそれに関連した資料を見学することができたのです。つまり、大天守を外から、しかも同じ目線の高さから見ることができるというもの。そんな機会、一生に一度あるかないかレベルの貴重な体験です。普段は中に入ることはできますが、外に出ることは不可能ですからね。

天守閣
通常は仰ぎ見ることしかできない天守閣を、こんなに間近で見られたのは、修繕時だったからこそ

 また筆者が訪れた際には、瓦が外された屋根と漆喰が一度剥がされた外壁を見ることもできました。普段であれば資料館にあくまでも見本という形で展示してあるものですが、この時には実際のものを見ることができました。

瓦や漆喰が剥がされた状態の姫路城
通常時なら絶対にお目にかかれない、瓦や漆喰が剥がされた状態の姫路城

 このように、お目当てのお城が工事中でも、逆に特別な光景を目にすることができるというこです。「なんだ、見られないのか」と諦めずに、見学できる可能性を模索してみましょう。また修理・修繕工事の場合には、普段は展示施設で見本という形でしか見ることができない物の実物を見学できるかもしれませんし、それこそ普段には絶対に見ることができない目線でお城を見ることができるチャンスに巡り合うかもしれません。

 今回は「城」をテーマに取り上げましたが、文化財に指定されている寺社、耐震工事が必要な古い建物など、修繕工事は多岐にわたって行われています。すべてに特別な機会が用意されているわけではありませんが、筆者の経験上、少なくとも特別展示が行われていたりするものです。今もどこかで、一生に一度の機会に巡り合うチャンスがあるかもしれません。次の旅のテーマにいかがでしょうか?

[ふるさと旅を10倍楽しくする!/第7回目]

観光ホスピタリティコンサルタント 石田宜久さん
DiTHi(ディシィ)代表。世界最大規模の専門家ネットワーク・外資系リサーチ会社「ガーソン・レーマン・グループ」のカウンシル・メンバーを務める。これまでにセミナーや講演会、観光系専門学校の講師、島根県経営力強化アドバイザーなども経験。趣味は登山、ラグビー、スポーツ玉入れ
https://www.dithi.net/