―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(25)]―
東京生まれ東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落で、忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。
3人の村民が意気投合して、ものづくりチームを結成
本当に豊かでここにしかない自然に恵まれた、奥阿蘇の産山村。ブルービーやアソノコギリソウなど、独特の生物や植物がさまざまに共存している生態系があります。また、広がる草原はどこか外国のような壮大な景色をつくります。
そんな産山村で「ときめくものづくり」を合言葉にうまれたチーム「+botanical ubu(プラス・ボタニカル・ウブ)」。
プラスボタニカル・ウブは産山村主催の「稼げる村つくり」の一環で始まったものづくり塾で意気投合した三人の活動名です(詳細は「限界集落で挑戦!「稼げる村づくり」でハーブや野草の商品を考案」を参照)。メンバーは、私、たまりん、じゅん子さんの3名。みんな産山村大好き村民です。そんな3人がそれぞれの思いをもって、ものづくり塾に参加しました。
3人とも自然を相手にしています。私は、野菜やハーブとワイン用ブドウを自然農法栽培するとともにオーガニックレストラン「asoうぶやまキュッフェ」に取り組んでいる。たまりんは「ふぁとりあin産山」の名称でエディブルフラワー&ハーブを栽培。そして、天然香水・芳香蒸留水&野草の研究をしている「Organ」のじゅん子さん。
私は、あり余るほど野菜やハーブが収穫できたときに、野菜たちを乾燥させてなにかできないかなと考えていました。同じようにたまりんも、乾燥したハーブやお花を商品化できないかなと思っていました。またさまざまな野草や山草など植物の香りフェチでお酒も大好きなじゅん子さんは、山野草を使ったクラフトジンに興味があったのです。
その3人がものつくり塾で偶然同じテーブルになり、あれこれ話したときに「じゃぁ3人で乾燥した植物でなにか商品化しよう!」「チームドライって名前にするぅ?」「いいね!それ!」。そんな会話からとんとん拍子にチームを結成しました。
商品化するまでの長い道のり
それぞれの分野で、次のステップに引き上げあったり、うまくいかず落ち込んだり、励まし合ったり、協力し合いながら半年以上かけてプラスボタニカル・ウブの商品づくりを進めてきました。
その商品たちも苦労を重ねて検討し、なんとなくこれでいける!? と決め込んでからも長かった! いや…そこからこそが長い長―い道のりでした。
試食を重ねた試作品はもちろん、それを入れるびんや袋などのパッケージも考えなければならず、決めたらサンプルを取り寄せ、実際に詰めてみたりしてまた試作に取り組む。最初は楽しくキャッキャしていたものの、あれもダメこれもイマイチとなると少しずつみんなのテンションが落ちていく…。
そんなときは集まってお茶をしながら作戦会議。内容量、見栄え、使い心地、商品を入れるボックス。それからえっと、ロゴは? デザインは? あぁどうやって使うのか説明書もいるよね、そうそう品質表示もね。
「資材やパッケージも共有できるものは共有できるといいねー」「で、品質表示の文字サイズは8pt以上だって」「このサイズに全部入るかな」などなど相談、話し合いはつきません。
ロゴのデザインがいくつか上がってきたらきたで、どれがいいか迷います。決まったら決まったで「あーここにロゴ入りのシールがあるといいねぇ」「わぁロゴがあるとちゃんとした商品みたい!!いいねー!」と盛り上がる。
その後も、「ちょっとこんなの考えてつくってみたんだけどどうかな!?」「わーわーすてき!!いいね!欲しいわー」「あらためてセット内容を考え直して、組み直したんだけどどうかな?」 「選べるし、ギフト用自分用でメリハリあっていいかも!」
「保健所でこれは変えた方がいいよってアドバイスもらったけどどうしようか」「うーん、じゃあ変えてみよう。少し考えてみるね」「デザイナーさんにお願いするのに、それぞれ自分の商品の説明書き出して!」「それぞれの商品名やセット名も早くだしてくださーい!」
毎日、LINEを使って話し合い相談し合い、週に1度は顔を合わせて試作品を持ち寄っては報告&相談を繰り返していました。
ついに完成! ボタニカルな商品たち
そんな試行錯誤を繰り返し、ついにプラスボタニカル・ウブの商品ができあがりました。
asoうぶやまキュッフェからは、オイル漬けしたドライハーブや野菜をスプーンですくって食べたりパンにつけたりする「ドライボタニカル・スクープドレッシング」。
もう1つは季節のドライハーブや果実をブレンドし、気軽に飲めるドリップタイプの「ボタニカルティー」。
ふぁとりあin産山は、自分でブレンドできるドライエディブルフラワーとハーブのセット「ドライボタニカル・フラワー&ハーブティー」。
Organはドライにした山野草や和ハーブを自身でジンなどに漬け込めるクラフトジン好きにはたまらない「ハーバリウム・インフュージョン」。
どれもボタニカル=植物を材料としているので、その時期その季節の商品内容は変わっていきます。大量に収穫できない植物も多く、完売したらその商品は次のシーズンまで製造は難しい。たくさんは販売できませんが、プラスボタニカル・ウブの商品が遠くのお家の食卓の上でよみがえり、いつもの一皿いつもの一杯が華いでときめくといいなと思っています。
人口1400人台の小さな山村の産山村でも、東京をはじめ都市部にいるのと遜色なくものつくりが出来るインターネット環境の整った今現在。逆に、どこにもない大自然からのインスピレーションを得られる分、ここでしかできないものつくりが完成しました!
―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし]―
折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手おもちゃメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、その後、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。