宮城県富谷市で開催。イタリア発のスローフードイベント「Terra Madre」

「Terra Madre(テッラ マードレ)」は20年前からイタリアで開催されている「スローフード」がテーマの世界最大級の食イベント。2023年、宮城県で日本版のテッラマードレが開催されました。キッズ食育トレーナーの黒川未紗さんがレポートします。

スローフードの祭典「Terra Madre」

イタリアの会場の様子

「Terra Madre」は、2004年からイタリアで2年に1回開催されているスローフードがテーマのイベント。テッラマードレでは、スローフードのスローガンに賛同する食の生産者や料理人、学者、活動家などが、分野や民族、世代の垣根を超えて1000にもおよぶさまざまなテーマで語り合います。

 スローフードという言葉、耳慣れていても実際はなにを意味しているのか、きちんと説明できる人は多くないかもしれません。スローフード(Slow Food)とは、1989年にイタリアのブラという小さな村で生まれた言葉で、「おいしい、きれい、ただしい(Good, Clean, Fair)」というスローガンを掲げ、世界160か国以上で活動されている草の根運動です。

「おいしい」は良質で味わいがよく健康的な食品、「きれい」は環境を脅かさない食の生産方法を支持していく、「ただしい」は食を生み出している生産者から搾取することなく適正な条件で関わっていく、ということを表しています。

 スローフードの活動に賛同している生産者は、食の生産が気候変動と密接に関係していることを認識し、極力、環境に負荷をかけない配慮をしたり、各地域の風土に合ったかたちで生産しています。こういった生産に関わること、それらの食品を食べる人が増えることで、気候変動の抑制や生態系の保護などにつながるという考え方です。

イタリアの会場

 イタリア本国で開催されるときは、世界中の出店者が集まる広大なマーケットエリアや、五感を使って味わうテイスティングワークショップ、多種多様なトピックについて立場が異なる人々が話し合うフォーラムがいたるところで同時に行われるなど、一度では回りきれないほどのプログラムが用意されています。

 大きな企業の出店はほとんどなく、ここでしか出合うことのできない国や地域の人がブースを出しているのも「Terra Madre」の大きな特徴です。

宮城県富谷市で開催された「Terra Madre Japan」

富谷市の市長

 この食の祭典の日本版が、2023年9月に宮城県富谷市で開催されました。その立役者となったのが、2004年にイタリアではじめて「Terra Madre」が開催されたとき、日本代表としてスローフード国際本部の役員を務めていた、若生裕俊・富谷市長です。

 生産者にスポットをあてた世界規模のイベントはほかに類がなく、世界中の熱意ある人々が集まって議論していたあの感動を日本でも、という熱い思いが、日本版「Terra Madre」の実現に、第1回を富谷市で開催することに、つながりました。

「私たちは大地の恵みとして食をいただいています。その大地とともにがんばっている生産者がいるから、私たちは豊かな食をいただくことができ、それに関わる人がいるから生きることができています。今回のイベントで大地に感謝し、大地とともにがんばっている生産者や食に関わる人に感謝をする1日にしていきましょう」

 オープニングイベントでそうお話する若生市長の言葉が、とても印象に残っています。

ローカルな生産者やつくり手と対話できる場

日本の会場の様子

 宮城県富谷市のしんまち地区全体を使った日本初の「Terra Madre」は、北は秋田県から南は大分県まで、50以上の出店者さんが集まり5000人以上が来場しました。

ワークショップの様子

 イタリアの「Terra Madre」同様、会場のいたるところでトークショーや、五感を使ったテイスティングワークショップ、食に関する映画の上映会などが行われました。

出展の様子

 また、日本各地から集まった生産者やつくり手が食品などを販売するマーケットエリアも活気づいていました。東北が開催地ということもあり、地元の農家さん、蔵元さんや養蜂家さんらも多く出展していました。

 おいしい食品をつくるだけでなく、地域を巻き込みながら環境を保全する取り組みについてなど、熱く語ってくれる出展者さんがたくさんいらっしゃいました。

トークセッション

 トークセッションでは、被災地支援として全国のパティシエが一丸となって、宮城県の日本酒や岩手県のはちみつなどを使ったレシピを考案しているプロジェクトの過程や、食の未来についての話を聞くことができました。

「おいしい」から始まり、日々の食卓でどういった食の選択をしていくかあらためて考え行動するきっかけとなる「Terra Madre」。今後は偶数年の秋にはイタリアで、奇数年の秋には日本で、それぞれ開催できるようにしたいと、日本スローフード協会が動いています。

 日本中の食いしん坊が集まり「おいしい」喜びに包まれながら、すべての生命と生態系が生き生きとあるためにできることを考え、実践する。そんな草の根活動が日本でも広がるきっかけとなるこのイベントが、日本各地のローカルで開催されるなんて、考えただけでワクワクします。まずは、次回の開催を楽しみにしたいと思います。

<取材・文/黒川未紗>
<写真提供/一般社団法人日本スローフード協会>

[地元の食文化から食育を考える]

黒川未紗
千葉県千葉市在住。1児の母。(社)日本キッズ食育協会認定 認定トレーナー、青空キッチン千葉登戸スクールを主宰。一般社団法人日本キッズ食育協会の本部にて、企画関連の仕事にも携わる。
小さい頃から食べることが楽しい、生きていくうえで大切ということを体感してほしいという思いで、子どもたちに向けた食育の活動を行っている。