山口市の手づくり無農薬メンマ。放置竹林の幼竹をおいしく活用

管理されない放置竹林による「竹害」が各地で問題になっています。山口市ではタケノコから2mほどに成長した幼竹をメンマの原料とすることで里山を守る取り組みがあります。現地のキッズ食育トレーナー、古賀瞳さんがレポート。

里山に放置された竹林による「竹害」

竹林にクレーン車で向かう様子

 山口県の竹林面積は約1万2千ヘクタール、全国第4位の保有率です。昔からタケノコ栽培が行われてきた一方で、ライフスタイルの変化とともに竹は利用されなくなり、さらに高齢化が進むことで管理されず、放置された竹による「竹害」が深刻な問題となっています。

 竹は成長スピードが早く広葉樹の成長を妨げ、さらに根が浅いために山の斜面が竹だらけになることで土砂災害の危険が増します。また、放置竹林がイノシシなどの野生動物の住処になり、田畑を荒らし農作物への被害が拡大していると考えられています。

タケノコ以上竹未満の幼竹を「メンマ」に

竹の子

 放置竹林は増加するばかりで、対策整備が進んでいないのが現状です。そんななか、山で切り倒された「タケノコ以上、竹未満」の2mほどの幼竹に新たな価値を見出し、竹害の改善を目指している武石智絵さんを取材しました。

 武石さんは山口県山口市徳地の配電線保全伐採業「樹」の取締役兼地域連携コーディネーターです。本業である伐採業の現場で邪魔者扱いされる竹を目の当たりにし、荒れた竹林や電線にかかる竹も多く見てきました。

 どうにか整備できないか、資源にならないかと考えていたところ、インターネットで福岡県のメンマづくりを知り、竹=厄介者から、竹=食材と発想の転換が働きました。実家が総菜屋を営む、武石さんならではのインスピレーションです。

メンマになる前

 すぐに制作現場の福岡県糸島に足を運び、下処理や加工を一から学びます。山口県に戻って営業許可をとるためのたるの手配や作業場の整備をし、10日後には無農薬純国産「めんま維新」の開発を始めました。

収穫は2週間、加工は即日。おいしさは時間との勝負

作業中の様子

 幼竹の収穫は4月下旬から5月上旬の2週間ちょっとです。「竹の生育には表年(豊作)と裏年(不作)があって、今年の目標は幼竹5トンでした。表年かと思いきや、途中から竹があまり生えていなくて収穫が難しく2トンほどしか集まらなかったんです」とのこと。

めんま維新

 武石さんは自ら竹林へ入り2mほどに伸びた幼竹を朝採りし、その日のうちに塩漬けまで行います。収穫後すぐに処理することで鮮度が保たれ、よりおいしいメンマに。切った竹をおいておくとすぐに虫がわいてくるので、時間との勝負です。

 2か月ほど塩漬けし、塩抜きしたあと、車で1時間半の加工場へ。ひとつひとつ手作業でカットし、計量、味入れ、真空パック、高圧殺菌作業、ラベリングが行われ、その年のメンマができあがるのは7月頃です。

 真空パック内での味つけは、途中で試食できないため調整が難しく苦労しました。スープは夜な夜な味見して悩みながら開発。決め手になるチキンスープ(秋川牧園)やしょうゆ(丸桑醤油)は山口県産のものを使うことにこだわりました。メンマをいろいろな料理に利用してもらい、スープまでおいしく食べてほしい一心で、愛情をもってつくっています。

メンマの味わい方はいろいろ。竹を使ったコミュニティづくりも。

めんま維新の販売の様子

 武石さんはメンマづくりのほかにも、竹を利用して新たな就労や交流の場となるコミュニティーづくりを目指しています。子どもたちが竹に触れ、竹について学ぶきっかけの場として「竹灯籠づくり」や、竹を燃やした熱を利用し、竹に生地をつけて焼くバームクーヘンならぬ「バンブークーヘンづくり」など、さまざまなワークショップを行います。

「めんま維新」をはじめとする竹の加工食品はネット販売のほか、山口県山口市内の直売所で購入できます。味つきメンマのほか、味つけやカットされる前の塩漬けメンマは、必要なときに塩抜きしていただけます。そのままでもシャキシャキと歯ごたえがよく、好きな大きさに切って煮たり焼いたり、調理法は無限大です。

 3歳以上を対象にした食育教室青空キッチンでは、春はチンジャオロースにチャレンジ。8月にはトマトつけ麺と、手づくりラーメンのレッスンにメンマを添えました。メンマといえばラーメンというイメージがありますが、このメンマはご飯のおともにもぴったりな味つけ。無農薬純国産で安心安全、小さな子どもから家族みんなで楽しめる一品です。

 タケノコは苦手な子もいますが、食材を見て、触って、自分の食べたい大きさに切ることや、切り方を工夫して食べやすくすることで、苦手克服のチャンスにつながります。子どもたちと一緒に調理しながら、竹林対策から生まれたメンマを食べてみてくださいね。

<取材・文/古賀瞳 写真・取材協力/武石智絵>

[地元の食文化から食育を考える]

古賀瞳
キッズ食育トレーナー/栄養士/3児の母。山口県山口市徳地で育つ。保育園栄養士の経験を生かし子ども達のやりたい!を叶えるためキッズ食育を学ぶ。子ども達が将来自分自身で幸せになる力を育むことをテーマに食育教室WAKUWAKUkitchen、青空キッチン防府スクールを主宰。