防府市で規格外野菜をレトルト食品に。高校教師を辞めて食品加工会社設立

加工も出荷もできない規格外の農作物が増加しています。山口県防府(ほうふ)市でそんな現状に危機感をもち、教師を辞めて食品加工業を始めた福田章弘さんを、地元のキッズ食育トレーナー、古賀瞳さんが取材しました。

高校教師からレトルト中心の食品加工業へ

地元野菜

 山口県のほぼ中央部に位置する防府市は瀬戸内海に面し、一級河川の佐波川(さばがわ)や大平山(おおひらやま)など、豊かで美しい自然に囲まれています。比較的温暖な気候と自然災害が少ないことも相まって、とても暮らしやすい地域です。

 農作物はタマネギ、白菜、ネギをはじめ、サイシンとブロッコリーを合わせた山口県生まれの野菜「はなっこりー」の生産も盛んな一方で、山口県で農業に携わる人の平均年齢は72.3歳と高齢化率全国1位(全国平均 67.8歳。農林水産省2020年農林業センサス調査結果)。まとまった平坦な耕地が少ない中山間地域のため大規模な農地が少ないなどの問題もあり、生産者数は減少しています。 

ほうふーどファクトリー

 福田章弘さんは小さい頃から祖父母の家で農作業を手伝うのが好きで、将来は農業に関連した職業に就きたいと考えていました。農業高校を卒業後は大学の農学部に進学。卒業後は教員として県内の田布施農工高校や山口農業高校で11年間勤めます。農業高校で食品加工や商品販売などの授業を担当するなかで、授業の一環として地域と連携した商品開発のプロジェクトを手がけていました。

 そのプロジェクトで、農業や食品製造のさまざまな現場を目の当たりにします。規格外の農作物が生産者自らの手で畑に捨てられていること、規格外野菜も商品として出荷される取り組みが進む一方で、中山間地域がゆえに規格外野菜としても規定の出荷量に満たず、破棄される農作物がたくさんあること。同じように手をかけて育てられた農作物が安く出荷されること。

 このままでは未来の農業生産者は育たないのではないか?と強く感じ、学生や若い世代に地元に残り、農業に携わってもらうための手助けできないかと考えるようになりました。学校の授業ではどうしても一過性の取り組みで終わってしまう、継続して農作物のロスを減らす方法はないかと考え、思いついたのがレトルト商品を中心とした食品加工でした。

 授業として教えてきたノウハウを生かし、地元で生産したものを地元で加工・販売する仕組みをつくり、地域の農業と食を支える力になりたいと高校教員を退職。2023年5月に「ほうふーどファクトリー」として活動を開始し、JHTC認定HACCPコーディネーター(HACCAP:食品の安全性を確保するための衛生管理手法)も取得しました。会社名は防府(ほうふ)という地域に根ざした名前にしたいこと、だれでも読みやすいことを盛り込んで、子どもと一緒に考え、屋号に決定したそうです。

味の決め手は3歳の息子のグッドサイン

商品

「ほうふーどファクトリー」の製造・販売は2023年9月からスタート。現在25品ほど商品化しています。レトルト食品の加工や製造、販売は教えていた福田さんですが、いちばん苦労しているのはレシピやメニューの開発だそうです。

 一般的に食品の加工販売業は、需要のある商品をつくるために食材などの材料を集めますが、福田さんの事業では、規格外の野菜を中心に商品を考えることになります。一度に100kg単位のニンジンやタマネギなどをどう商品にしていくか試行錯誤の日々、レシピを考えては試作を繰り返します。

「何度も試食をすると味がわからなくなりました。家族全員に味見してもらい、最終的な味の決め手は、3人きょうだいの末っ子、3歳の息子がおいしい!とグッドサインを出してくれることなんです」と福田さん。

 ニンジンをスープに加工して子どもに試食してもらったら、ひと口しか飲んでもらえなかったこともあるそう。ざらつきをなくして改良を重ね、同じニンジンスープでも、子どもに喜んで飲んでもらえるようになってから商品化。子どもの舌は繊細でなによりも頼りになるそう。福田さんの商品には、子どもたちにより野菜を好きになってもっと食べてほしい、農業に興味をもってもらえるような活動をしていきたい、という思いも込められています。

小さな町の食品工場で生産者と消費者をつなぐ

加工中の様子

 県内には小ロットのレトルト食品の製造を請け負っている企業は少なく、福田さんの工場には次々と依頼が入ってきました。取材に伺った日も、出荷できない熟した大量のシャインマスカットをどうにかできないか?と持ち込まれており、県内産のさまざまな食材、タマネギ、イチゴ、秀芳梨、長門峡梨、竹炭、ハモ、豚肉、鶏肉、葉ワサビ、イタリアントマトなども商品化してきたそうです。

 町の小さな食品工場として山口県の農業を盛り上げ、生産者と消費者をつなぎたい、地域の農家の魅力を発信し、農業に関心のある若い世代を応援しながら、安心・安全な食を提供していけたらと福田さんはいいます。

 山口県は海の幸も豊富な一方で漁業就業者も全国を上回るペースで減少している現実があり、はじめての海産物の商品化として、ハモのミンチの活用を検討中だそう。

 農作物などを常温で長期保存可能な食品に変え、いつでもどこでも手軽に山口県の素材を食べてもらうことや、安心・安全な食材を使用し、子どもに素材がもつ風味を楽しんでもらうこと、今後はさらに避難食や介護施設向けの食品、1、2才の幼児向けのレトルト食品なども思案中です。

 ほうふーどファクトリーの商品は防府市内の直売所で購入できるほか、ネット販売もあります。フルーツの風味をそのまま閉じ込めたドライフルーツも製造・販売。無添加なので健康的なスナックとして幅広い世代に人気です。

 米農地をもつ筆者の実家も今回の取材を機に、山口県産米を使用し、離乳食初期の赤ちゃんからお年寄りまで食べることのできる無添加のおかゆやおじやを、福田さんと一緒に開発中です。ほうふーどファクトリーの商品に、今後も注目していきたいと思います。

<文/古賀瞳>
<写真・取材協力/ほうふーどファクトリー・福田章弘さん>

―[地元の食文化から食育を考える]―

古賀瞳

キッズ食育トレーナー/栄養士/3児の母。山口県山口市徳地で育つ。保育園栄養士の経験を生かし子ども達のやりたい!を叶えるためキッズ食育を学ぶ。子ども達が将来自分自身で幸せになる力を育むことをテーマに食育教室WAKUWAKUkitchen、青空キッチン防府スクールを主宰。