みそ、酒、しょうゆ。発酵食品のおいしさを決める麹づくりに挑戦

[料理研究家の全国取材レポート]

実践料理研究家の岩木みさきさんは、「生産と消費のサイクルをつむぐ」をテーマに、食にまつわる生産者や職人のことをもっと知りたい!と日本全国を訪ね歩いています。現地取材で得た貴重な情報を共有できるこの連載、今回は発酵食品をつくるのに欠かせない「麹(コウジ)」についてです。

住み込みで麹の勉強をしてきました

宮本さんと糀
宮本さんと糀

 海が見える愛知県西尾市西幡豆町(にしはずちょう)、みやもと糀店に私がはじめて伺ったのは2018年の春のこと。麹づくりの繁忙期に、1週間住み込みで手伝いをしながら勉強させてもらえるという情報を聞き、すぐに連絡をとりました。みそをはじめ発酵食品は麹の質が要なのだと分かり、そもそもどうつくられているのか知らなければ!と思っていたタイミングに舞い込んだうれしい知らせでした。

日本酒には米麹、しょうゆや豆みそには豆麹などが使われる

 麹とは、日本の国菌である「学名:アスペルギルス・オリゼー、和名:ニホンコウジカビ」を、米や麦など蒸した穀物に繁殖させ培養させたもの。甘酒や日本酒や米みそには白い米麹が使われ、豆みそやしょうゆには緑の胞子をまとった豆麹が使われるなど、用途により使用する麹の種類が変わります。

 でき具合によって大豆のタンパク質や米などの糖分を分解する酵素の力が異なり、発酵食品の完成度に影響するため、菌が繁殖しやすい温度や湿度などを見極めてつくる必要があるのです。

3種の麹
3種の麹:左手前)米麹、中央奥)豆麹、右)麦麹

 多くの麹店では米麹をつくっているのですが、みやもと糀店では米・麦・豆、さらに焼酎仕込みに使用される黒麹菌を使用した黒米麹の4種をつくっています。

 ちなみに「麹」は中国から伝わった漢字で、穀物を蒸して麹菌を繁殖させたものを表し、「糀」は日本でつくられた国字で、米に糀菌が「花が咲くように生える様子」から生まれた漢字です。常用漢字としては「麹」が用いられますが、コウジ屋さんの多くは「●●糀屋」と表記するところが多いように感じます。

米糀
米麹
豆糀
豆麹

麹づくりの肝は温度と湿度の管理

もろ蓋
室(むろ)の中で麹菌を繁殖させるため、空気が流れるように重ねたもろ蓋

 「みやもと糀店」ではおもに、みそや甘酒、塩麹に使用する麹をつくっています。麹づくりは、前日から浸漬した穀物を蒸し釜で蒸し、「種麹」と呼ぶ麹菌をふりかけ、もろ蓋(もろぶた)と呼ばれる杉の箱に入れ温度管理をし、菌の繁殖具合を見た目と香りで見極めていきます。麹菌は自分で勝手に熱をもち死滅してしまう性質なため、人間が手を入れ温度を下げる必要があります。この温度と湿度の管理こそ、職人の技なのです。

もろ蓋
出来上がった麹をもろ蓋からはがす作業
板麹
もろ蓋からはがしたままの板麹

 乾燥させないものを「生麹(なまこうじ)」、保存性を高めるために乾燥させたものを「乾燥麹」と呼び、もろ蓋からはがしたままのものは「板麹(いたこうじ)」、手でほぐしたものを「バラ麹」と呼びます。

世界中から学びたい人を受け入れる、みやもと糀店

宮本さんと岩木さん
宮本さんと一緒に

 店主の宮本さんは楽器演奏もする陽気で明るい人柄が印象的で、地域の仲間とともにラジオのパーソナリティも務めています。写真の専門学校に通ったあと、20歳でインドを旅し、体調不良をきっかけに自分が食べるものをつくろうと農業やみそづくりを始め、5年前から麹の販売を行なっています。

 「おもしろいことがわいてきたら形にしているよ」と、ドライフルーツとナッツを混ぜた金山寺みそ、黒米麹でつくったブドウのような味わいのみそなどを試作され、独自の発想は発酵の異世界への入り口のように感じます。

 毎年1月~4月には約60回のみそ仕込みワークショップを行い、参加者は1000人を超える超人気ぶり。4種類の麹をつくりながら、さらに別枠でしょうゆ仕込みワークショップも開催されているというから驚きです。

ブドウの味わいの味噌
ブドウのような味わいがするみそ

 みやもと糀店では、麹づくりや発酵食品の魅力を伝えるため、学びたい人の受け入れを定期的に行なっており、ヨーロッパなど海外からの参加者もいらっしゃるとのこと。
宮本さんに教えていただきながら、私ももっと理解を深めていきたいと思います。

看板
みやもと糀店の看板

みやもと糀店
・住所:〒444-0703 愛知県西尾市西幡豆町市場25-1
・電話/FAX:0563-62-6023
・来店:事前予約

<取材・文/岩木みさき>

[料理研究家の全国取材レポート]

実践料理研究家・みそ探訪家/岩木みさきさん
拒食症・過食症・ひどい肌荒れに悩み、食生活を見直し改善に成功。“日々の中で実践出来ることが健康につながる”と考え“生産と消費のサイクルを紡ぐ”をテーマに、日本各地の現地取材、レシピ考案・撮影、ラジオやTV等のメディアにも出演。料理教室misa-kitchenを主催。講演やイベント含む料理教室講師回数は1350回を超える。“みそ”に魅せられ日本各地のみそ蔵約60ヶ所100回以上を訪問。著書に「みその教科書」(エクスナレッジ刊)
岩木みさきオフィシャルサイト