カレーにも神社にも!原木シイタケは環境に優しい大分のソウルフード

大分県は干しシイタケの生産量が全国の約4割を占める一大生産地。シイタケの菌を植えつけるのに使うクヌギが多く生育しており、おいしいだけでなく、栽培の仕組みも高く評価されています。大分在住の食育トレーナー、石動さんが教えてくれました。

世界農業遺産に認定。サスティナブルなシイタケ栽培

原木シイタケが生えた様子

 伐採した木に菌を植えつけて成長を待つ、昔ながらの栽培方法の「原木シイタケ」には、春と秋の2回、旬があります。冬から春、夏から秋の温度差でよく育ち、木の伐採から収穫まで約2年かかります。

クヌギの栄養のみで育つ

クヌギの木

 シイタケの原木に多く使用されるクヌギは伐採しても切り株から芽が出て15年ほどで大きくなり、また切って使うことができます。そして、シイタケ栽培に使用した木は土にかえり再び森の栄養分となるので、地球にやさしい栽培方法として有名なのです。

干しシイタケ

 春に収穫されるシイタケは、厳しい寒さのなかでうま味をたっぷり蓄え、肉厚でおいしくなっており、干しシイタケは、そんな肉厚なシイタケをさらに干してうま味を凝縮させます。持続的に森を利用したシイタケ栽培の仕組みのすばらしさが世界にも認められ、2013年には大分県の国東半島が「世界農業遺産」に認定されました。

大分県民のだしといえば「シイタケ」。カレーにも入ります

干しシイタケのだし

 そんなわけで、大分県民にとってシイタケは常に身近にあるソウルフード。だしといえば、やっぱり水から戻すシイタケだしです。みそ汁や雑煮など、多くの家庭で昔から愛用されています。カレーにもシイタケを入れる家庭が多く、もどし汁ごと活用することでうま味や栄養価がアップし、わが家でも子どもたちに大人気のメニュー。保存袋を利用して、水に入れてひと晩待つ方法は手軽においしいだしがとれるのでおすすめです。

シイタケカレー

 干しシイタケをそのまま粉末にした「シイタケパウダー」もおすすめ。シイタケが苦手な子どもにも取り入れやすいと思います。わが家では、シイタケパウダーとみそと乾物(切干大根、わかめ、麩など)を混ぜて丸めた「みそ玉」を常備。忙しい朝でもお湯を注いでパパっとおいしいみそ汁ができるので、とっても便利です。

 苦手な子が多いシイタケですが、「シイタケだし」からつくった料理を食べるということも、好き嫌い克服の第一歩になります。

シイタケパウダー

大相撲のトロフィーもシイタケ、神社にもシイタケ!

シイタケトロフィー

 大分県民の生活にシイタケが欠かせないエピソードは、食以外にもいろいろあります。大相撲では、優勝力士にトロフィーや旗などたくさんのプレゼントがありますが、大分県からは昭和54年から大分特産の乾燥シイタケをぎっしり詰めた優勝トロフィーを贈呈しているそうです。このトロフィーの高さはなんと110㎝もあるとのこと。

シイタケ神社

 また、大分市内にはシイタケにまつわる神社、その名も「椎茸神社」があります。建立されたのは、第二次世界大戦中で、「シイタケの原木もすべて木炭にしてしまうべきだ!」との声が軍部で高まり、シイタケ業界は存続の危機に陥ったそうです。しかし、当時の椎茸組合長さんが椎茸業界を守るため椎茸神社を建立し、軍部の圧迫を免れることができた、という歴史があり、今では日本でも珍しい観光スポットになっています。

子どもたち

 先代の想いが引き継がれて、今おいしいシイタケが食べられていること、じつは地球にやさしい栽培方法が評価されていること。身近な食材でも、産地や歴史、文化など少しおもしろいエピソードを知るだけで、大人はもちろん、子どもも、もっともっと好きになってもらえると思います。大分県の「原木シイタケ」、ぜひおうちでも食べてみてください。

<取材・文/石動敬子>
<写真・取材協力/大分県農林水産部林産振興室・大分県椎茸振興協議会・大分県椎茸農協共同組合・国東半島宇佐地域世界農業遺産推進協議会)

[地元の食文化から食育を考える]

石動敬子(いしないけいこ)さん
大分県在住。2児の母。日本キッズ食育協会マスタートレーナー
「夜ご飯はお菓子が食べたい」という娘のひと言がきっかけで、子どもたちに食の大切さを伝えていきたいと考える。幼少期の大切な時期に楽しく食と関われるチャンスをつくりたい、たくさんの経験をしてほしい。そんな想いで大分県を中心に子どもに特化した食育活動を行う。
(社)日本キッズ食育協会 青空キッチン坂ノ市スクール/大分駅前スクール主宰。