山口県の魚介といえば「フグ」は有名ですが、じつは「タコ」と答える地元の人も多いのだそう。三方を海に面し、豊かな水産資源に恵まれている山口県の、知る人ぞ知る隠れた名産を、キッズ食育トレーナーの藤原真希さんが教えてくれました。
山口県周南市の認定ブランド「周南たこ」
山口県周南市西部の桑原漁港では、伝統的なタコつぼ漁で良質なタコが水揚げされています。瀬戸内の入り組んだ地形と複雑な潮流で生息するマダコは、小ぶりでも足が太く、いいエサを食べて育っているので味が濃いと評判。なかでも桑原漁港はじめ周南近海で獲れるタコは周南市の特産品「しゅうなんブランド」として認定され、「周南たこ」と名づけられて人気を誇っています。
エサを食べるとふたが閉まる仕組みのタコつぼを海中に沈め、つぼに入ったタコを引き上げるタコつぼ漁は、1年を通じて水揚げされますが、7月が最盛期、まさに山口・周南の夏を代表する食材ともいえます。
味わい方はさまざまですが、地元漁師おすすめの食べ方は「刺身」と「タコめし」。水揚げされてすぐに取引される鮮度抜群の周南たこは、弾力がありながらもやわらかく、その食感から老若男女問わず人気があります。また、タコの身を一緒に炊き込んだタコめしは、うま味が強く、飲食店をはじめ道の駅や学校給食でも提供されています。
「周南たこ」は生きた食育教材
周南市と県漁業協同組合は2013年から毎年、市内の保育園、幼稚園、小、中学校を対象に、「周南たこ」に触れることで「食を大切にする心を育む授業」を開催しています。地元の海産食材を知り、楽しく食べてもらう魚食普及と、命を食べて生きていることを知る食育の目的があります。
年長児はまず、地元の漁師からオンラインでタコの生態やタコ漁について学びます。次に、生きたタコを観察しながら、オスとメスの違い、タコの頭はどこかなど、クイズ形式で学びます。タコの持ち方を教わったあとは、実際に触ったり、持ち上げたりすることに挑戦です。あちらこちらで歓声をあげ、腕にタコの吸盤をくっつけながら果敢に挑む子どもたちの表情は、どこか自信に満ちていくように感じます。
生きたタコとの触れ合いのあとは、調理される様子を見学し、最終的にはおいしくいただいて、この食育授業は終了となります。「タコにもいのちがあるんだね」。ひとりの園児が発した言葉のあとに、沈黙が流れました。
「今はスーパーに行けばなんでも手に入り、食べ物から『生』を感じることが少なくなりました。漁師さん・漁協さん・魚屋さんなど、たくさんの人を介して食べ物が運ばれ、その食べ物も、もとは『生・命』があったことを、子どもたちは体感してくれたと思います。沈黙がそれを物語っていて、『周南たこ』を使った食育授業はいい機会になりました」と、園児たちと一緒に参加した南陽幼稚園の大野泰生先生。
主催側の周南市・あんしん子育て室管理栄養士、薮下友美さんは、「タコは漁獲後も比較的生存時間が長く、生きている姿から食卓に上がるまで、命をいただいていることを伝えやすい食材です。また、その食感を生かして『かむこと』の話をすることもできます。『周南たこ』を使って、これからも地元の食材と食を大切にする心の授業を子どもたちに行っていきたいです」と話してくださいました。
「いただきます」は命をいただくことに対する感謝の気持ち、そして、それらを生みだす豊かな自然と、育てて届けてくれる人々への「ありがとう」の気持ちを表す言葉です。これは筆者も食育スクールで日頃から子どもたちに伝えている内容ですが、地元の食材「周南たこ」を使って、このような食育活動が広く行われていることは非常にうれしく思います。
周南市には「周南たこ」のほかにも「周防はも」「徳山ふぐ」といったおいしい海の幸があります。子どもたちが地元のすばらしい海産物や食材に興味をもち、さらに食を大切にする心を養っていけるよう、今後も取り組みを応援しています。
＜取材・文／藤原真希＞
＜取材協力／周南市産業振興部水産課、周南市こども・福祉部こども局あんしん子育て室、山口県漁業協同組合、学校法人 真福学園 南陽幼稚園
藤原真希
山口県在住。キッズ食育トレーナー／管理栄養士／2児の母。
「食で親子のコミュニケーション」・「ママが料理を楽しめる工夫で家族みんなをHappyに」をテーマに、大人も子どももキッチンに立つことが楽しくなる方法を日々考案している。
(社)日本キッズ食育協会認定 青空キッチン山口周南スクール 主宰
◆食育を通じて、子ども達とより楽しく有意義な時間が過ごせるようになる
『キッズ食育講座』山口県開催情報
初級：9月7日（火）・8日（水）11：30～15：30
中級：10月18日（月）・19日（火）11：30～15：30
（会場：周南市シビック交流センター・周南市学び交流プラザ）
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