「かぶらずし」はすしではなく「漬物」。北陸の正月に欠かせない家庭の味

かぶらずしは、名前にすしとつくけれど実際は漬物。かぶらは、北陸地方の方言で野菜のカブを指します。大きなカブとブリでつくるこの郷土料理について、富山県在住のキッズ食育トレーナー、新谷明美さんが教えてくれました。

「かぶらすし」はカブにブリを挟んで発酵させた「漬物」

かぶら寿司

 初めて石川県や富山県を訪れた人から、「かぶらずしを注文したら酢飯のおすしではなく、お漬物が出てきてびっくりした」という声を聞いたことがあります。

 かぶらずしは、野菜のカブにブリの切り身を挟んで麹に漬け込み、発酵させて塩漬けした漬物で、江戸時代初期からつくられてきたといわれる北陸の郷土料理です。地方によってはブリの代わりにサバを使うこともあります。

 ブリは、北陸地方では「ツバイソ → コズクラ → フクラギ → ガンド → ブリ」と、大きさによって名前が変わっていく出世魚で、縁起物でもあり、昔から高級品でした。
 そのため、なかなか口にすることのできない庶民が、なんとかカブにはさんで隠して食べようとしたという説もあるようです。

 子どもの頃から両親が食べているのを見ていましたが、麹がたくさんのっている見た目は、正直あまりおいしそうではなく、苦手な物のひとつでした。

 しかし、正月が近づくと、いつも食卓にかぶらずしがあったからでしょうか、おいしそうに食べている親の姿を見ていたからでしょうか、自分に子どもができた頃から、母がつくってくれるかぶらずしを食べることが楽しみになっています。

 寒くなってくると、スーパーにはかぶらずし用の大きなカブが並びます。おいしさが分かるようになった今こそ、家庭の味、おふくろの味として、自分も子どもたちに伝えていかなければと感じます。

「かぶらずし教室」で昔ながらのおいしさを取り戻す

新村こうじ商店の外観

 今回お話を聞いた新村こうじみそ商店さんは20数年前から、かぶらずし教室を始めました。きっかけは、かぶらずしがお歳暮に欲しくないという人が多かったからとか。麹が乗っている見た目はきれいとはいえず、保存期間を長くするための甘すぎる味つけも不人気の理由だったようです。

昔はお歳暮の定番

 かぶらずしをたくさんの人においしくつくってもらうことで継承していきたいと教室を始めたところ、今では募集するとあっという間に満席になる人気の教室に。

かぶら寿司教室

かぶら寿司の教室2

 筆者もキッズ食育トレーナーとして子ども向け食育スクールを始めたことをきっかけに、子どもたちに富山の郷土料理を伝えたいと思い、新村さんを講師としてお迎えし、かぶらずし教室を開催しました。教室では発酵のお話から始まり、実習、保存方法などを学び、まずは自分でつくったかぶらずしを食卓へ、というところから始めます。

 家族みんなでいただくことで、子どもたちの記憶に少しでも残って、「今年もかぶらずしの季節が来たね!」「この地方の自慢の味だよ」といってくれる子どもたちが増えるよう、大人になったときに、なくてはならない郷土料理のひとつになるよう、これからも毎年続けて、広めていけたらと思っています。

<取材・文>新谷明美
<写真・取材協力>新村こうじみそ商店

[地元の食文化から食育を考える]

新谷明美さん
富山県在住。薬剤師。キッズ食育マスタートレーナー。食育クッキングスタジオかむかむSmile代表。歯科からの食育を伝えるため新谷歯科医院に隣接して食育クッキングスタジオをオープン。離乳食教室や小学校、地域で子どもたちに食の大切さや楽しさを伝える活動を行っている。
(社)日本キッズ食育協会 青空キッチン氷見校主宰