加工方法で食感が七変化。ふわふわおいしい湘南シラスの魅力

神奈川県の相模湾沖でとれるシラスは、「湘南シラス」として有名です。これから最盛期にむかう湘南シラスの魅力について、地元で食育トレーナーとして活躍する坂本理加さんが紹介してくれました。

「湘南シラス」の漁は3月解禁、6月は脂がのる最盛期

とれたての生シラス

「湘南シラス」は、神奈川県南部にある三浦市の三崎漁港から湯河原町真鶴岬までの、相模湾沖で獲れるシラスの総称で、「かながわ名産100選」にも認定されています。

相模湾

 相模湾は日本三大深海にも選ばれ、水深は1000m以上。箱根や丹沢山地などの森から流れる水と、深海に積もる栄養分が波で混じり、魚にとっては恰好の餌場で、日本で獲れる魚の約4割、1300種類ほどが生息しています。

獲れたて湘南シラス

 相模湾のシラスの多くは生後20~50日のカタクチイワシの稚魚で、タンパク質やビタミンD、カルシウム、鉄分が豊富に含まれています。体長2、3cmほどの大きさですが、身の引き締まった歯ごたえは格別で、生シラスだけでなく、加工の仕方によっていろいろなおいしさが楽しめる、まさに7変化の食材といえます。

シラス漁師

 神奈川県では1月から禁漁期間となり、シラス漁が解禁されるのは春も近づく3月11日。毎年春になると太平洋を西から東へ流れる黒潮に乗って流れてきます。

 5月、6月くらいまでは脂がのっておいしい「春シラス」、湾で栄養を蓄えた「夏シラス」、寒さで身が引き締まった「秋シラス」と、時季によってさまざまな味わいが楽しめます。

新鮮な生シラスからふわふわの釜揚げシラスへ

シラス漁の様子

 横須賀市では市内西側の相模湾に接する地域で、主に6軒の漁師が漁に出ています。そのうちの1つ、横須賀市佐島にある平敏丸の平野さんに話を聞きました。

シラス漁は3月解禁

 漁は、シラスが傷つきにくく、生きたまま水揚げできる「一艘(いっそう)曳き」と呼ばれる漁法で、1つの船で網をひきます。長さ150mもある網を魚の群れを囲むように海に入れたら、船をゆっくり走らせます。

とれたらすぐに氷の中へ

 そして網を引き揚げるとすぐに、たっぷりの氷に入れて水切りをしながら、鮮度を保持します。鮮度を保持することがいちばんのポイントだそうです。そしてすぐに港に帰り、加工場に持ち込んで休む間もなく加工作業を行います。

すぐに氷水で洗う

 生シラスは、加工場で氷水洗いした後、そのままパック詰めをし、すぐに直売所に並びます。獲れて1時間以内の生シラスをいただきました。プリプリとした張りのある食感とともに甘味がすぐ口の中に広がりとてもおいしかったです。ほどよい磯の香りもして、臭みもまったくありません。

生シラスをパック詰め

 そしてこの後すぐ、生シラスはさっとゆでて釜揚げにします。釜揚げをするときの塩加減は、各直売所によって少しずつ変わるそうです。

シラスの釜揚げ

 平敏丸では、塩加減を時期によって少しずつ変えているそうです。塩以外はなにも入っていません。もくもく蒸気が立ち込めるなか、100℃に沸いた釜に一気に生シラスを入れ、時折大きなしゃもじで混ぜながら2分半。ゆですぎると水っぽくなるため、ゆで時間も重要だそうです。

ゆで上がったシラスは板上に広げる

 平たい網の上に広げて水気を切ります。熱を冷ましたら冷蔵庫で冷やして完成。シラスが「し」の形になっていれば新鮮な証拠。釜揚げシラスは、ふわふわした仕上がりです。

ふわふわした完成品

干す時間でちりめんじゃこ、たたみイワシと七変化

干す時間で変わる加工品

 シラスは干す時間の長さで加工品が変わってきます。釜揚げ後1時間ほど長く干すと「天日干し」(写真中央)。干す時間が長くなると、塩味が効いてきます。ぱらぱら、さらさらした仕上がりです。そして半日以上干すと「ちりめんじゃこ」(写真右)になります。

たたみイワシ

 そして上の写真が「たたみイワシ」と呼ばれるもので、生シラスを四角い木枠で型を取って1日以上、干します。薄い板状になっていて、焼くとパリパリして香ばしい味わいです。

店頭に並ぶたたみイワシ

 シラスは鮮度を保つために、さまざまな形に姿を変えます。わが家は普段、釜揚げシラスはご飯に混ぜたり、野菜と炒めたりしていたのですが、脇役にしなくてもおいしく食べられることに感動しました。

シラスをパックから食べる4歳の娘

 初めてつくりたての釜揚げシラスを食べた4歳の娘は、「そのまま食べた方がおいしい!」と、パックからほおばっていました。シラスのなかから小さなイカも発見して、うれしそうに一緒に食べていました。シラスの加工による変化について楽しみながら伝えるだけでも立派な食育になります。

シラスに混ざる小さなイカ

 食材は自然の恵みをいただくけれど、私たちが食べているのは、たくさんの人が携わってこそのもの。漁師さんをはじめ、関わる人の深い思いを、今回改めて感じることができました。ぜひ新鮮な湘南シラスを食べにきてください!

<取材・文・写真:坂本理加>
<取材協力:神奈川県しらす船曳網漁業連絡協議会、平敏丸 平野敏幸代表>
<写真一部提供元:三浦半島が大好きだ!

[地元の食文化から食育を考える]

坂本理加
神奈川県在住のキッズ食育トレーナー。2児の母。コロナ禍で「食」を苦に感じた親子を助けたい、「食」の力で笑顔にしたいと活動を始める。食を通して新たな発見、楽しいと思える食卓のきっかけづくりを行っている。