奈良県の吉野といえば桜とともに「吉野葛(よしのくず)」が有名。県民にはなじみ深い食材で、とくに寒い時季には欠かせないそう。吉野葛について、奈良で生まれ育った食育トレーナーの髙井智美さんが紹介してくれました。
吉野の気候と職人の手間が欠かせない名産品
「吉野葛」は、奈良県では桜や大仏、鹿と同じくらい有名な名産品です。お土産屋さんには、葛うどんや葛そうめん、葛もちに葛きりなど、葛粉を使った商品が店頭にたくさん並んでいます。
葛粉づくりには厳しい寒さと乾燥した冷たい空気、おいしい水が必要で、山々に囲まれて風が冷たくとても寒い吉野の気候は、適しているそう。
秋の七草のひとつでもある葛は、その根っこが葛粉の元です。葛の根から採るデンプンを冷たい水にさらし、精製するのですが、この精製にはとても手間のかかる工程を重ねる必要があり、大変地道な作業なんです。
葛粉ができるまでの工程
①葛の根をきれいに洗い、粉砕して水と混ぜ、繊維からデンプンをもみ出す。
②デンプン液を一晩おいてデンプンを沈殿させ、にごっている上澄みを捨てて表面のアクや底に沈んだ細かい泥を取る。これを、アクがなくなるまで何度も繰り返す。(「吉野ざらし」といいます)
③水槽などに流し込み、さらしを使って水分をある程度吸収させ、アクを取り、カットして乾燥させる。
上澄みがにごっている間は、何度も何度も水を換え続けるそうです。アクがなくなり、底に沈んでいるデンプンが白色になるまで続けて、やっと次の工程に進むことができます。この技術力は職人さんのなせる業で、おいしさにも、決して安くはない値段にも納得です。
葛粉は体にやさしく栄養もある
調理に使うと、とろ~り、もちもち、いろいろな食感が楽しめる葛粉は、栄養面でも大変注目されています。マメ科の植物としてデンプン食品のなかでは唯一、良質なイソフラボンを含んでいるそうです。
血行をよくし、体を温める作用があるといわれていて、漢方薬としておなじみの「葛根湯」は葛の根を使っています。実家でも昔から体調不良になったときは、まず葛湯でした。祖母がつくってくれた「葛湯」は、幼いときの思い出の味でもあります。
葛湯のつくり方は、葛粉を湯のみに入れ、少量の水で溶いてから熱いお湯でのばし、透明になるまでよく混ぜます。しっかりとしたとろみを出したいときは、レンジに数秒かけるか、鍋で加熱するのがポイント。はちみつなどで薄く味をつけ、ゆっくりといただきます。
体が温まるだけでなく、胃腸にもとてもやさしいので、風邪予防や風邪の引き初めに欠かせないアイテムです。葛湯を飲んで寝ると次の日にはすっかり元気になる気がします。おいしいので毎日でも飲みたいのですが、幼い頃は簡単には出してもらえない、特別な食べものでした。昔のことを思い出すとき、よく葛湯の話が出てきます。
今では店頭に、いろいろな味の葛湯が並んでいます。抹茶にユズ、ショウガ、最近ではメープル味やココア味など。どれもそそられるものばかりです。
奈良県民の日常的な葛粉使い
葛粉には塊と粉末があり、粉末は葛粉を手軽に使ってほしいというつくり手さんたちの思いから生まれたそう。水にサッと溶けて使いやすいので普段使いに適しています。購入者も粉末の方が増えているとか。ただし粉砕機にかける手間の分、塊より少し値段が高くなります。
葛は料理のとろみづけに最適で、片栗粉と違い、時間が経っても、とろみがゆるくならないのが特徴です。日本料理には欠かせませんし、とくに寒い時期は、葛粉のあんかけ料理は体を芯からあたためてくれるのでとてもおすすめ。
いつものうどんに葛粉を少量の水で溶いて回し入れ、とろみをつけると、食べごたえのあるうどんに変身。あんかけにすることで冷めにくく、ゆっくりと時間をかけて食べることができるので満腹感も出ます。奈良では具だくさんにして提供しているお店も多く、1杯で栄養もとれそうですね。
みなさんも寒くなる時季に葛であったまり、ほっこりしてみてはいかがでしょうか。
<取材・文・写真:髙井智美>
<取材協力:飛鳥彩瑠璃の丘天極堂>
髙井 智美
大阪府在住キッズ食育トレーナー/調理師/フードコーディネーター
3児の母。奈良県の農家で育つ。自身の子育てで経験した食の大切さを小さいときから学んでほしいという思いからキッズ食育を学ぶ。青空キッチン大阪富田林駅前スクールを主宰