のりは四角に切りそろえたもの一般的ですが、定着したのは江戸時代の後期で、もともとは海でつんだままの形で天日で乾かして食べていました。今でも残る「バラ干し海のり」は、パリパリの食感や磯の香りが格別。大分で活動するキッズ食育マスタートレーナー、石動敬子さんが紹介してくれました。
海の恵みをそのまま味わう「バラ干しのり」
日本の食卓、とくに和朝食では定番ののりは、1年中おいしく食べることができますが、旬は12月~3月の寒い時季。海でつんだあと太陽と寒風に繰り返しあてることで、風味豊かになるといわれています。
のりといえば、おにぎりや巻きずしなどに使う、四角い形の「板のり」を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、じつは四角い形ののりは、江戸時代後期に手すき和紙と同じ手法ですいてつくられたことから始まり、庶民の間でのり巻きが大流行して以来、定番になったといわれています。
江戸時代後期より以前は、つみ取ったままののりを岩場などで干し、火鉢などであぶって、そのままの形でいただく「バラ干しのり」のスタイルが主流だったそう。今回は、大分県のバラ干しのり、「吉四六(きっちょむ)のり」についてご紹介します。
大分の文化として伝承するよう願いを込めた「吉四六のり」
大分県大分市は、江戸時代、享和4年(1804年)に幕府に献上された豊後国志(現大分県の地誌)に土産(その土地の産物)として記載があるくらい、のりが有名だったそうです。しかし昭和30年代後半~40年代にかけて、大分臨海工業地帯の発展に伴い、のり養殖の一大産地としての歴史は幕を閉じます。
その後、現在に至るまでバラ干しのりの文化と魅力を伝え続けているのが、昭和22(1947)年より親子3代に渡って続く「鶴亀フーズ」です。大分県北部にあるのり養殖の生産者さんと協力し、「吉四六のり」という愛称で地元に愛されるのりをつくり続けています。
「吉四六のり」という名前の由来は、江戸時代初期、現在の大分県臼杵(うすき)市に実在したという「吉四六」というゆかいなトンチ名人から。みんなにずっと親しまれるようにという願いを込めて名づけたそうです。
生産者のこだわりが詰まったのりの養殖
のりの養殖は、種づけが秋頃から始まり、冬にかけて極寒の海の中で収穫作業を行います。同じ海で育つのりはどれも同じ味と思われるかもしれませんが、海の中で時間をかけてゆっくり育てる方法(収穫量は多いが病気になる確率が高い)、なるべく若い段階で収穫する方法(病気のリスクは減るが収穫量は減少)など、気候や海の状況、現場でのプロの見極め方によって、味も異なります。
バラ干しのりの加工方法はとてもシンプルです。まず、海からつみとった生のりが工場に届いたら、すぐに塩水洗いし、手でほぐしてそのままの状態で乾燥させます。鮮度を保つためにも、仕入れた翌日までに作業を完了させるのは鶴亀フーズのこだわりです。
シンプルだからこそ、加工段階でのりの栄養をほとんど損なわず、海の豊かな栄養と海流から生まれる、のり本来のうま味と香りがたっぷり詰まったバラ干しのりを完成させることができます。
鶴亀フーズでは、地元の子どもたちの工場見学も受け入れています(2023年2月現在は感染症対策の為、中止)。筆者も食育スクール「青空キッチン」の生徒さんと一緒に参加させていただきましたが、普段食べている海苔の本来の姿を目の前に、子どもたちは興味深々でした。また、工場内に広がる磯の香りに、「いいにおい~!」という声が飛び交っていました。
アレンジしやすく、香り、食感、栄養価も抜群
開封した瞬間から磯の香りが広がり、食べる前から五感で楽しめる「吉四六のり」。パリパリしていて、そのまま食べても絶品なので、子どものおやつや大人のおつまみにもピッタリです。
料理のトッピングとしても、とても優秀で、パッとひとふりするだけで、のりのうま味をプラスすることができ、白いご飯にはもちろん、お吸い物やみそ汁、うどんやラーメンなどの麺類とも相性抜群です。卵焼きに混ぜたり、天ぷらにしたりと、アレンジも自由自在。ゴマ油と塩で軽くあぶるだけで、韓国風のりのようにも楽しめます。
さらに栄養価面でも、ミネラルがたっぷりで、ミネラルにはカルシウムや鉄分も含まれていて、不足しがちな栄養素が手軽にとれます。
普段から吉四六のりを愛用しているご家庭に子どもたちが食べる様子を聞いてみると、「これがあると、いつものご飯の食べる量とスピードが全然違う」「サラダにトッピングするだけで野菜を食べてくれるようになった」「子どもたちがのりのうま味を繊細に感じるみたい」など、大人気なことが分かります。
バラ干しのりという魅力的な食材を通して、その背景にある歴史や生産者さんの想い、そして感謝の気持ちも、子どもたちへ伝えていきたいです。
<取材・文/石動敬子>
<取材協力・写真提供/鶴亀フーズ・松本海苔>
石動敬子(いしないけいこ)
(社)日本キッズ食育協会認定 青空キッチン大分駅前スクール/浜松スクール主宰。2児の母。キッズ食育マスタートレーナー。
「夜ご飯にお菓子が食べたい」という娘のひと言がきっかけで、これから自分の意志で食を選び始める子ども達へ食の大切さを伝えていきたいと考える。幼少期の大切な時期に楽しく食と関われるチャンスをつくりたい、たくさんの経験をしてほしい、そんな想いで子どもに特化した食育活動を行う。