甘くて大きなブルーベリーが旬。つくば市の農園でつみ取り&食べ比べ

6月から8月にかけて旬を迎えるブルーベリー。茨城県つくば市は、東京の小平市、山梨の北杜市と並んでブルーベリーの「日本三大産地」として知られ、その実は500円玉大にもなるとか。つくば市在住のキッズ食育トレーナー、宮内真由美さんが紹介してくれました。

芝の産地からブルーベリーへ転作

たわわに実るブルーベリー

 つくば市内にはブルーベリー農園が約15か所あり、旬の時期にはブルーベリーのつみ取りで賑わいます。つくば市のブルーベリーの特徴は、なんといってもサイズ。500円玉大のブルーベリーが収穫できるんです。

500円玉大のブルーベリー

 茨城県つくば市で栽培が盛んになった理由は大きく2つあります。1つ目はそれまで盛んだった芝の価格が下落したことから、ブルーベリーの生産へ転作が推奨されたことです。ブルーベリーは北米原産ですが、つくばの土壌と気候に合ったため、転作しやすかったと言われています。

ブルーベリーマイスター

 2つ目は、つくば市に日本初のブルーベリーマイスターが誕生したことです。地域特産物ブルーベリーマイスターの認定をもつ鈴木太美雄さん(80歳)は、50年以上ブルーベリー栽培に携わり、普及活動に力を入れてきました。

 地域特産物マイスターに認定されるためには、「地域特産物の栽培、加工等の分野で多年の経験と卓越した技術能力を有し、産地育成の指導者や地産地消活動のリーダーともなる人材」であることが条件です。ご本人は「そろそろひっそりとやりたいんだけどな……」と言いますが、今でも全国からブルーベリー栽培の問い合わせが途絶えません。

テレビ取材をきっかけに認知度アップ

鈴木さんご夫妻

 約40年前、鈴木さんは筑波大学の市民向け公開講座の果樹コースに参加し、当時は珍しいブルーベリー栽培に取りかかります。前例がないなか、日々、研究を重ねて試行錯誤を繰り返し、独自の栽培方法を確立させました。

 同時に鈴木さんはブルーベリー栽培の普及活動をスタート。それにこたえるようにブルーベリー栽培を始める人が増えていきました。ただ当時は、ブルーベリー栽培が広まっても需要はほとんどなく、実ったブルーベリーは出荷されることなく地面に落ちて、「一面、青いじゅうたんのようだった」そうです。

 そんなある日、鈴木さんの農園にテレビ取材が入り、それがきっかけで地元だけでなく県外からもブルーベリーを買い求める人があふれかえったそうです。おいしさが評判を呼び、「車の列がびっしりと農園の周りに連なっていたのを覚えています」と鈴木さん。

 これが今から約30年前のこと。こうして、つくば産のブルーベリーは全国的に認知度を上げていきました。「まだまだ道半ば。品種改良に時間を費やしてもっと粒の大きいブルーベリーをつくりたい」という鈴木さんの挑戦はこれからも続きます。

デザイナーが立ちあげた農園も話題に

アオニサイファームブルーベリー観光農園代表の青木真矢さん

 新しいスタイルのブルーベリー農園も注目を浴びています。つくば市で2023年に開園した「アオニサイファームブルーベリー観光農園」の青木真矢さんにお話を伺いました。

 青木さんは広告デザイン会社を起ちあげ、グラフィックデザイナーとして仕事をするなかで、広報担当として京都でのブルーベリー農園の立ちあげプロジェクトに携わります。

 プロジェクトはSNSを駆使した情報発信と、おいしさを追求した「独立適応栽培」というこだわりの栽培法により大成功。この経験をもとに、青木さんはデザイナーとしてのスキルをいかした自分発信の「農業×デザイン」を地方都市でできないかと模索します。

「つくばは人口が増えていて、駅のある都心部から10分離れたら農村地域で好立地。おもしろい場所だと思いました」と、妻の実家でもあるつくば市でブルーベリー農園を立ちあげました。

粒の大きさと甘さが人気のつみ取り体験

アオニサイファームのブルーベリー

 ブルーベリーは大きく分けて2つ、大粒で高品質なハイブッシュブルーベリー系統と、酸味が少なくマイルドなラビットアイブルーベリー系統があります。ハイブッシュ系統は6月から7月中旬ごろ、ラビットアイ系統は7月~8月に最盛期を迎えるので、時季によって異なる味わいが楽しめます。

 各系統のなかでもさまざまな品種があり、アオニサイファームでは全23品種のブルーベリーを栽培していて、食べ比べしながらのつみ取り体験は子どもから大人まで人気です。

 さらにアオニサイファームのブルーベリーは粒が大きくて甘いのが特徴で、つみ取りに来たお客さんは「こんなに甘いなんて思わなかった。酸っぱいというイメージしかなかった」とみんな驚いて帰るそうです。この、粒の大きさと甘さの秘訣こそ、京都で学んだ「独立適応栽培」という栽培法なのです。

ポットの中はブルーベリー専用の培地

 苗は地植えではなく、ポットに植えます。樹が大きくならないように剪定することで、ちょうど手の届く高さでつみ取ることができ、小さな子どもでも安全に摘み取りができます。ポットの中は土ではなく、ブルーベリー専用の培地を使用。根っこが絡まったり根詰まりしたりせず、大きく成長することができます。

各ポットに管が敷かれている

 水やりは全自動かん水システムで管理。ブルーベリーが好む最適なph数値に合わせた水を決まった時間に供給します。これで最適な環境を安定的につくることが可能になります。

シーズン問わず観光を楽しめる農園づくり

入園しやすい農園づくり

 アオニサイファームでは、入園しやすい農園づくりの工夫も各所に見られます。周りを囲うネットは天井を高くして開放感を出し、地面には防草シートを敷くことで雑草が生えず、「ハイヒールでも摘み取りを楽しめますよ」というとおり、歩いても汚れにくく、ベビーカーでも移動しやすい環境です。

農園を眺めながら食事ができる

 ブルーベリーのつみ取りシーズンは3か月だけですが、シーズンオフでも農園を楽しめる工夫が施されています。カフェやBBQ場が併設されていて、本格石窯で焼くオリジナルのブルーベリーピザは、わざわざ食べにくるお客さんも多いのだとか。剪定したブルーベリーの枝で染色も体験できます。

ブルーベリーピザ

「つみ取ったブルーベリーがピザやスイーツになることなど、子どもたちにはブルーベリーをとおして一連の食体験も味わってもらえたらうれしいです。つくばのブルーベリーは甘くておいしいことを、もっとアピールしていきたい」

 情報発信は自分の使命と言う青木さんは、今後も精力的に「農業×デザイン」の力で茨城の農業を盛り上げてくれるに違いありません。

摘みたての生のブルーベリーが一番おいしい

 最後に、ブルーベリーのおすすめの食べ方を鈴木さんと青木さんにそれぞれお伺いしたところ、お二方とも、「つみ取りで生のブルーベリーを食べること」と教えてくれたのが印象的でした。

 農園に足を運ぶだけでも、得られるものはきっと大きいはず。実のなり方、色、形、そしてなにより、つみたてのいちばんおいしい味を知ることは最高の食体験です。生のブルーベリーが食べられる貴重な時期に週末や夏休みを利用して、友人や家族と一緒に、日本3大産地のつくばでつみ取り体験をしてみませんか。

<取材・写真協力:地域特産物ブルーベリーマイスター鈴木太美雄さん、アオニサイファームブルーベリー観光農園、つくば市役所農業政策課
<取材・文:宮内真由美>

[地元の食文化から食育を考える]

宮内真由美
キッズ食育トレーナー/茨城県つくば市在住/2児の母
(社)日本キッズ食育協会認定 青空キッチンつくば校主宰。子どもの頃の経験は一生モノ。幼いころの食体験は生きる土台となり、大人になったとき生きるチカラを与えてくれます。食育教室のほか、親子で楽しむ季節の手しごとレッスンも開催。