もっちりおいしい国産小麦「ユメシホウ」クレープや焼きそばに好相性

茨城県つくば市で誕生した国産小麦「ユメシホウ」。香りも食感も腹もちもいいと評判のユメシホウはパン以外にもいろいろなメニューで地元の人から人気です。つくば市在住のキッズ食育トレーナー、宮内真由美さんが紹介してくれました。

25年前から地元産の小麦粉の研究を行う

ユメシホウの畑

 茨城県つくば市にある農研機構では、農業と食品産業の発展のため、基礎から応用まで幅広い分野で研究開発を行っています。そのひとつに、小麦の品種開発があります。

 国産のパン用小麦は、北海道や九州地方で数種類ほどつくられてはいたものの、9割は外国産でした。そこで農研機構ではパン用国産小麦品種の開発に力を入れることに。北海道、岩手、茨城、広島、福岡を拠点に、各地の研究センターでそれぞれの地域に合うようなパン用小麦をつくる動きが始まりました。

農研の藤郷誠さん

 農研機構作物研究部門の藤郷誠さんによると、茨城県で約25年前からユメシホウの開発を始めた主な理由として、「学校給食用に地元の小麦粉を使ってパンをつくりたい」という需要が高かったこと、個人店舗のパン屋から「地元産の小麦粉を使ったパン」という付加価値をつけて販売したいという要望があったからだそうです。

 地元産小麦の需要は高まり、ユメシホウは茨城県内だけでなく、関東地域に適した小麦粉として開発され、関東初の国産小麦が誕生しました。

パン以外の使い方で人気を集める

 ただ、ユメシホウはパンづくりにおいて、グルテンの元になるタンパク質の含有率が安定しないことから、ふくらみづらい性質がありました。

 開発当初からユメシホウを使ってきた同市にあるパン屋「ラムール」によると、「味は麦の風味がしっかりとしていて、香りがよく本当においしい。ただパンをつくるには扱いが難しいんです」

 そこでその性質をいかし、ふくらませる必要のない小麦粉料理に使うようになると、じつは製菓や麺類と相性がいいことがわかりました。

シャンドゥブレの看板

 つくばのガレットとクレープの店「Champs de blé(シャンドゥブレ)」では、自家栽培・自家製粉のユメシホウでつくるガレットとクレープを堪能できます。オーナーの野堀伸子さんにお話を伺いました。

「母がユメシホウでパンづくりをしていて、そこではじめて地元産の小麦があることを知りました」。都内のクレープ屋で働いていた伸子さんは、地元つくばに戻り、現在の店を開業。ユメシホウでクレープをつくってみたところ、相性がよかったそうです。

「パンだとふくらみづらいけど、クレープなら必要ないですし、なおかつ、普通の小麦より香りがいいのも気に入りました」

クレープ

 クレープ生地はもちもちで香ばしい匂いがします。輸入の小麦粉が多いなか、地元で収穫された小麦を使ったクレープは評判に。店には赤ちゃんやお子さん連れの親子もよく来店するそうです。

「お子さん連れでも、ぜひいらしてください。地元にはどんな食材があるのか知ってもらえたらうれしいですよね。いつか、お子さん向けにユメシホウを使ったクレープづくりのワークショップも開催してみたいです」と野堀さん。

店内で購入できるユメシホウのミックス粉

 店内では、ユメシホウ小麦粉(500gで400円。2023年7月現在)のほか、クレープやガレットがつくれるミックス粉も購入できます。クレープミックス粉はユメシホウ小麦100%、ガレットは自家栽培・製粉の常陸秋そば粉とユメシホウ小麦のミックス。レシピが記載されているので、おうちで手づくりのユメシホウクレープやガレットが楽しめます。

もちもちしたつくば焼きそばにも活用

たこ焼き

 ユメシホウを使ったふわとろでだしがきいた生地が人気のタコ焼き専門店「おおきや」は、あるときから「つくばたこ焼き」以外に「つくば焼きそば」がメニューとして加わりました。

 代表取締役の大木範彦さんが、つくば市の隣市にある青木製麺工場で使いきれなくなったユメシホウが廃棄されているという話を聞いて、「もったいない、ぜひ使わせてほしい」と依頼。同じ製麺工場でユメシホウを使った太麺の開発を成功させ、念願だった「つくば焼きそば」を販売することになったそうです。

ユメシホウの焼きそば

 焼きそばは「もちもちと弾力があっておいしい」と評判になり、タコ焼きとともにつくば名物として人気メニューになっています。

農研機構オリジナルレシピで、ユメシホウピザ

ユメシホウピザ

 最後に、農研機構から提供いただいたレシピで、ユメシホウピザのつくり方をご紹介します。ピザはほかのパンに比べてふくらみも必要ないので、初心者でもつくりやすくおススメです。ユメシホウは農産物直売所で購入できます。

ユメシホウピザ

【材料(直径約20cmのピザ1枚分)】
・小麦粉(ユメシホウ、市販の強力粉でも代用可):100g
・食塩:1.4g
・ドライイースト:0.3g
・水:58g
・オリーブオイル:10g
・ピザソース、チーズ、好みの具材:各適量

【つくり方】
①小麦粉・食塩・ドライイーストを軽く指で混ぜ合わせる
②水を加え、全体がひとまとまりになるまでこねる
③オリーブオイルを加え、さらにこねる
④オリーブオイルがなじんだら、台の上で生地がなめらかになるまでこねる
⑤生地を丸くまとめ、ボウルに生地を入れラップをかける。冷蔵庫で一晩もしくは室温(20℃~30℃)で30分くらい置いて発酵させる
⑥ガス抜きをし、生地をのばす。ただし、冷蔵発酵の場合はのばす前に室温に20~30分置く
⑦フォークなどで生地全体に穴をあける。ピザソース、チーズ、好みの具材をトッピングする
⑧240℃のオーブンで5分前後焼いてでき上がり(オーブントースターでも可)

 ユメシホウは、今では「こんなに万能な使い方をされているパン用小麦はほかにない」とまで言われるようになりました。いろいろなおいしいメニューを通して、「こんな食べ方があるんだね、こんな味がするんだね」と、娘たちと会話も弾みます。
 地元ならではの食材を知り、食べることを楽しむことは、子どもたちにとって食に興味をもつ小さな一歩になります。その一歩一歩を増やしていくことが、食べ物も生産者も大切にする、地産地消の考え方にも繋がるのではないかと感じました。

<取材・文:宮内真由美>
<取材・写真協力:農研機構作物研究部門、フレッシュベーカリーラムール、つくばたこ焼きおおきや、つくばのガレットとクレープの店Champs de blé

[地元の食文化から食育を考える]

宮内真由美
キッズ食育トレーナー/茨城県つくば市在住/2児の母
(社)日本キッズ食育協会認定 青空キッチンつくば校主宰。子どもの頃の経験は一生モノ。幼いころの食体験は生きる土台となり、大人になったとき生きるチカラを与えてくれます。食育教室のほか、親子で楽しむ季節の手しごとレッスンも開催。