キャンディーのような甘い香り。奈良の白イチゴ「コットンベリー」

寒い時季に甘味が増すイチゴは、今まさに旬。今回は、びっくりするほど甘くて希少という奈良県の白イチゴを、実家はイチゴ農園という食育トレーナーの髙井智美さんが紹介してくれました。

キャンディーのような白イチゴ「コットンベリー」

コットンベリー

 日本全国で栽培されているイチゴは、300品種以上あるといわれています。イチゴといえば赤いものが多いですが、白いイチゴも最近ではよく見かけます。百貨店などでは赤いイチゴと白いイチゴを並べ、紅白で縁起がいいと、お祝いごとに求められることも。筆者の実家のイチゴ農園では、紅白で詰められたイチゴは贈答用に使われます。

紅白のイチゴ

「赤いイチゴは甘い、白いイチゴは酸っぱそう」、そんなイメージをもつ人がいるかもしれませんが、それを覆すのが「コットンベリー」。2021年に登録された白イチゴの新品種です。

 育成したのは育種開発家の大村佳伊人(おおむらかいと)さん。抜きんでた甘味とキャンディーのような香り、気温が上がるとハートに似た形がほのかなピンクに色づくのもかわいらしいイチゴです。

 生産者が2024年1月時点で4名のみという希少なコットンベリー。生産農家は大村さんが環境を確認してから交渉し、権利を譲渡しているのだそう。

苗づくりから収穫までイチゴ農家は年中稼働

苗

 一般的にイチゴの苗は、購入して植えつける方法と、親株から自分で増やしていく方法があります。コットンベリーを含め、こだわってつくるイチゴ農家は後者の栽培方法が多いそう。

 イチゴの収穫までの流れは品種に関わらず、ほぼ同様です。5月上旬までイチゴを摘み、苗づくりは6月から。収穫を終えて休む間もなく苗づくりに取りかかるので、1年中、作業を行う必要があるのです。

苗が育つ様子

 9月には立派に育った苗を地植えし、毎日水やりをして、さらにミツバチを使って受粉させることで、安定した生産が可能に。そして12月のクリスマスの頃、ついにイチゴは実ります。

手間ひまかけて生産される白イチゴ

奈良の紅白いちご

 コットンベリーの生産者のひとり、石井逸夫さんはもともと、奈良のブランドイチゴ「古都華(ことか)」を中心に生産していた農家。古都華は有機肥料を使用し、消毒などは行わない農法で育てていたため、安心・安全、そのうえ糖度が高いと評価されていました。

 大村さんから「コットンベリーをつくらないか」という誘いを受けたときには、コットンベリーが白イチゴのなかでもとにかく甘くて香りがいいと感じ、大村さんの思い入れにも共感。石井さんのコットンベリーのハウスに入ると、なんとも言えない甘い香りがいっぱいに漂っていたそう。

 コットンベリーは、有機肥料のほかにも乳酸菌やカニ殻を混ぜ込んだ土づくりなど、製作過程にこだわっています。いちばん厄介なのは害虫ですが、消毒では対処せず、たとえばダニが出るとダニの天敵を与え、白カビがついてしまううどんこ病には植物病害を抑制する紫外線(UV-Bライト)を葉に照らすなどの対策をしています。「安心して食べていただきたいから安全なものをつくりたい」という熱意が伝わってきます。生産者の苦労を知ると、ひと粒ひと粒をよく味わって食べたくなりますね。

 コットンベリーを店舗から直接購入できるのは、奈良県橿原市(かしはらし)にある農作物直売所「まほろばキッチン」と関西の一部の百貨店のみ。果肉がしっかりしていて配送には適しているので、通信販売で注文できるお店はあるようです。東京でも市場や有名な果物店では見かけることがあるかもしれません。これからの季節、イチゴフェアなどで出合えたらぜひ味わってみてください。

<文 髙井智美>
<写真・取材協力 イチゴ農家石井逸夫さん>

髙井 智美
大阪府在住キッズ食育トレーナー/調理師/フードコーディネーター
3人の男児の母。奈良県の農家で育つ。自身の子育てで経験した食の大切さを小さいころから学んでほしいという思いからキッズ食育を学ぶ。青空キッチン大阪富田林駅前スクールを主宰