うま味たっぷり「かぶす汁」はきときとの小魚でつくる氷見の漁師料理

お椀より少し平らな器に入ったみそ汁に、存在感のある小さな魚が数尾。このインパクトのあるメニューは富山県の「かぶす汁」です。富山市で活動する食育トレーナー、石黒美千子さんがこの郷土食をレポート。

きときとなかぶすをみそ汁に

かぶす汁

 富山県には「きときと」という方言があります。「新鮮な」という意味です。富山県氷見(ひみ)市は日本海に面しており、寒ブリやズワイガニで全国的にも有名な漁港の町。そのきときとの魚が入った「かぶす汁」は氷見で昔から食べられている郷土食のみそ汁です。

 もともとは漁師が舟の上で売り物にならない小さな魚をぶつ切りにしてみそで煮込んだ鍋で、小さいけれどとれたてのきときとの魚でつくった漁師飯のひとつ。「かぶす」とは氷見の漁師言葉で「分け前」という意味で、漁の合間や漁の後に、そのかぶすでつくったみそ汁のことを「かぶす汁」といいます。

「かぶす汁」を食べるのによく使われているのが三平皿(さんぺいざら)。かぶす汁は汁ものというより、具を食べる感覚なので、使う器は通常のみそ汁を入れるお椀より浅めのお皿です。お椀よりもメインの具である魚が入れやすく、小さい魚も最後までおいしく食べようとする漁師の工夫なのかもしれません。

小さなごちそう、漁師めし

富山湾

 富山湾は標高3000m級の立山連峰から栄養たっぷりな雪解け水が流れ込み、うま味あふれる魚を育てます。とれる魚の種類も豊富で、「天然のいけす」ともいわれています。

 かぶす汁にはカニ、タラ、富山名物のブリやホタルイカは入れず、売り物にならない、小さな、本来なら捨てられてしまう魚を入れてつくります。

小魚

 使われる魚は決まっていませんが、カワハギやカマス、フグなどを入れることが多いそう。あら汁ではないので頭は入れず、だしも使わず、味つけは少しの酒とみそだけです。シンプルですが、いろいろな魚の脂やうま味がしみ出て最高にぜいたくな料理になります。最後にネギを散らした熱々のかぶす汁は、白飯やおにぎりとの組み合わせも最高。

かぶす汁を日常に取り入れて食育にも

食育レッスン

 発酵食品のみそは多くの栄養素が含まれ、便秘解消、免疫力アップなど体にいいので、日々の食卓に取り入れたいもの。みそ汁は気軽なメニューですが、具が似たり寄ったりになりがちです。かぶす汁は、器の変化も含めていい気分転換になります。

 わが家では余った刺身や、調理しきれなかった魚などをかぶす汁にしていただきます。魚が苦手な子どもも、みそ汁の汁で魚のだしを味わえます。

 私がトレーナーを務める「青空キッチン」では子どもたちに魚もさばいてもらいます。最初は嫌がる子でも、きちんとさばき方を教えるとできるように。かぶす汁に使う魚は小さいので子どもでも扱いやすいです。

 頭は包丁で切りますが、内臓は包丁を使わず手で開いて取ります。匂いが気になるようであればゴム手袋をするといいですね。小さい魚は骨が多いこともありますが、小骨はやわらかいので、煮れば案外気にならずに食べられます。

かぶす汁のつくり方

材料
・魚(カワハギ・カマス・イワシ・フグ・キジハタ・イシダイなど)適量
・酒  ひと回し
・みそ(好みで麹みそなど)適量
・ネギ(好みで)適量

つくり方
1.魚はぶつ切にし、内臓は手で開いて取る。
2.鍋の水を沸騰させ、1を入れ、酒を回し入れる。
3.最初に出たアクを取り、10分ほど煮たら火を止めてみそを溶き入れる。
4.好みでネギを散らす。

 青空キッチンの子どもたちに1年を振り返って「どのメニューが楽しかった?」と聞くと、「お魚をさばいたこと」と答える子が多く驚きました。苦手なことを克服できると印象に残り、楽しかったこととしてインプットされる証明でもありますね。食卓でも、どんな魚が入っているか、どのかぶす汁が好きかなど話題にして楽しく食べることで、魚嫌いを克服するきっかけになるかもしれません。

 寒い時季には、温かいみそ汁があるだけで心も体もほっこりしますよね。日々の食卓にかぶす汁をぜひ、加えてみてください。

<取材・文:石黒美千子>

[地元の食文化から食育を考える]

石黒 美千子
キッズ食育トレーナー/富山県富山市/1児の母。あおいボトル主宰 (社)日本キッズ食育協会認定 青空キッチンA-Port校の講師。自身の子育て経験から身体や心の健康に小さい時期からの食が大切なことを実感し、子どもたちに伝えたいと奮闘。子育て雑誌の編集に携わった経験も活かし、ワークショップなど多方面での食育活動を行っている