どろソースにみかんソース。関西の粉もん文化が生んだおいしいご当地ソース

タコ焼きやお好み焼きなどが根づいている関西では、家庭で使うソースの種類も豊富です。関西で生まれ育ったキッズ食育トレーナー、髙井さんが紹介してくれました。

関西の「粉もん文化」に欠かせない各種ソース

スーパーの店頭に並ぶソース

 ソースには地域や家庭によってそれぞれ好みがあります。たとえば関東では、サラッとしたウスターソースとトロッとした濃厚なソースの間を取ったような、中濃ソースが多いようです。

 一方、粉もん好きの関西ではちょっと違います。この「粉もん」というのも、関西独特の言い方かもしれません。「粉もん」=「粉もの」=お好み焼き、タコ焼き、焼きそば、ネギ焼き、というような小麦粉を使った料理のことを一般的に指します。

 関西の人は料理によってソースを何種類か使い分けています。とんかつなど揚げものには、とんかつソース、お好み焼きにはお好み焼きソース、焼きそばソースや、タコ焼きソースもあります。濃度や甘味、だしを加えたものなど、それぞれのメニューに合うようにつくられています。

 ほかのソースで代用はできますが、そうすると食べていてなにかが違うと感じます。子どものころから食べ慣れているからなんでしょうね。各家庭に「推しのソース」もあるはずです。

 タコ焼きは、お店もたくさんありますが、家庭でもよくつくります。表面はカリッ、中がトロトロのタコ焼きには、甘めでとろみが弱いタコ焼きソースが合います。各メーカーでオリジナルの商品があり、たとえば自宅でつくるときに注ぎ口が3つ開いているタイプを使うと、お店やお祭り気分を味わえます。

 サラッとしたウスターソースも昔からよく使われてきました。コロッケのほか天ぷらにも使いますし、目玉焼きにもかけるので、食卓に常備されるソースです。

少しピリ辛の「どろソース」

どろソース

「どろソース」は、神戸の老舗ソースメーカー、オリバーソースの商品です。ソースをつくる工程ででき上がった上澄み液を「ウスターソース」といい、沈殿したものは「どろ」と呼んでいて、本来なら廃棄されていた部分を商品化し、濃厚でスパイスが効いたピリ辛なソースとなりました。

 私がはじめて認識したのは30年ほど前のテレビCM。関西では話題になり、どのスーパーにも並ぶようになりました。同じような商品は他のソースメーカーにもありますが、「どろソース」の名は商標登録されていて、スーパーに並ぶ同様のソースのなかでは「どろソース」が主流です。

 また、焼きそばとご飯を炒めた神戸のB級グルメ「そばめし」が話題になったときにも、味つけにどろソースが使われたことが注目されました。関西人にとっては、どろソースといえば「そばめし」といっても過言ではありません。

どろソースの濃厚な様子

 もちろんタコ焼き、お好み焼きなど粉もんとの相性もいいですし、カレーを食べるときに少しプラスすることでスパイシーになります。カレーを煮込むときの隠し味にも、野菜炒めの味つけにも合います。

ミカン果汁が20%も入ったご当地ソース

ご当地ソース各種

 関西に限らず地方には、その地元ならではのしょうゆやみそなど、なじみの調味料がありますよね。関西ならではの「地元ソース」は種類が多く、生まれたときから関西人の私でも、まだ試しきれていないソースがあるぐらいです。地元の特産品を使ったもの、SDGsへの取り組みとして環境問題の観点からボトルに工夫されたものなど多種多様です。

太子みかんソース

 なかでも特徴的なご当地ソースとして紹介したいのは「太子みかんソース」。ミカンの果汁が入ったフルーティーでやさしい酸味が感じられるソースで、コロッケやお好み焼き、ハンバーグにも合います。子どもたちにも辛くなく人気で、ぜひ一度食べてもらいたいおすすめのソースです。

 太子みかんソースは、大阪府南部にある南河内郡太子町の太子町観光協会が開発しました。太子町には大阪と奈良を結ぶ官道として整備された日本最古の街道「竹内街道」があり、聖徳太子もこの峠を越えて四天王寺と飛鳥を行き来したといわれています。

 このソースができたのは10年ほど前。ちょうど6次産業が話題になった時期でもありました。役場の観光産業課が特産品をつくる目的で、観光地のものと地産地消をテーマになにをつくるか思案した結果、南大阪で有名な「上の太子観光みかん園」のミカンを使って関西人が大好きなソースをつくるという案が浮上しました。

 子どもたちが安心して食べられるソースであることを、いちばんに目指しました。上の太子観光みかん園は畑が傾斜になっており、太陽の光が直接当たる環境で育つミカンはとても甘く、減農薬で育てられている点も最適でした。

 ミカンの果汁を手でひとつひとつ絞って冷凍し、加工委託業者「ツヅミ食品」でソースにしてもらうのですが、ミカンよりほかの香辛料の香りが勝ってしまうという点が難題でした。果汁の割合を何度も変えて試作した結果、全体の20%がギリギリのラインとわかり、ようやく満足のいくソースが完成。果汁がここまで入るソースは、なかなかないそうです。

 思わず目がいくかわいいパッケージも、地域のみなさんの意見を取り入れつつ、太子町観光協会で作成しました。「大阪産(もん)」のラベルは、当初からこだわった地産地消、地場産業であることの証です。「大阪もん」とは大阪府独自の取り組みで、環境農林水産部流通対策室ブランド戦略推進課産業連携グループが審査、認定するものです。

 地元では「道の駅 近つ飛鳥の里・太子」はじめ、「太子町竹内街道交流館」「太子道まつもと」「太子カントリー倶楽部」などで購入できるほか、各イベントや太子町観光協会のホームページでも販売されています。関西の粉もん文化から生まれた多種多様なソース文化、ぜひ味わってみてください。

<取材・文/髙井 智美>
<取材協力/太子町観光協会 西田様、竹内街道交流館>

[地元の食文化から食育を考える]

髙井 智美(たかい ともみ)
大阪府在住キッズ食育トレーナー/調理師/フードコーディネーター
男子3児の母。奈良県の農家で育つ。自身の子育てで経験した食の大切さを小さいときから学んでほしいという思いからキッズ食育を学ぶ。青空キッチン大阪富田林駅前スクールを主宰