山口市の「カワラケツメイ茶」ノンカフェインの香ばしい味わいが人気

マメ科の植物からつくられる山口市の「カワラケツメイ茶」。環境の変化や生産者の高齢化で一度は消えかけたお茶ですが、今では生産者も増え、そのおいしさも広まっているそう。現地のキッズ食育トレーナー、古賀瞳さんがリポートします。

江戸時代から親しまれた「カワラケツメイ茶」

山口市徳地地区の家と茶畑

 山口県中央部にある山口市徳地地区は山々に囲まれ、佐波川が流れる自然豊かな地域。アユやモクズガニ、ヤマノイモなど山間地域ならではの食べ物が有名です。

 今回ご紹介するカワラケツメイ茶は、徳地地区で江戸時代からが飲み継がれてきたお茶。カワラケツメイという名前の由来は、中国の生薬「決明(けつめい)」と薬効が似ていて、河原や河川敷に多く自生していることからといわれています。おもに日当たりのよい中国・四国・九州地方に自生するマメ科の植物で、クセがなく、とても飲みやすいことから、日本では漢方としてではなく日常のお茶として飲用されるのが一般的でした。

カワラケツメイ茶

 昔、緑茶は高貴な人しか飲めない嗜好品であり、庶民には縁のないものでした。緑茶を飲むことができない庶民は、代わりに自生する植物でお茶をつくって飲んだとされています。カワラケツメイ茶もそのひとつで、江戸時代頃から「マメ茶」や「ザラ茶」と呼ばれ、各地方で愛飲されてきました。

 しかし、河川の改修や農薬の影響で在来種が減少し、河原に自生しにくい環境に。生産農家も高齢化し、徐々に少なくなっていきました。そんなカワラケツメイを復活させるべく、十数年前から山口市徳地地区でカワラケツメイ茶の加工、製造、販売を始めた「とくぢ健康茶企業組合」を取材しました。

仕事を辞めカワラケツメイ茶の製造販売を始めた女性

理事長の増田久美子さん

 本来カワラケツメイは水やり不要でとても育てやすい植物ですが、夏真っ盛りの8月が収穫時期で、収穫から乾燥、選別、加工すべてを手作業で行うため、高齢の農家にはキツイ仕事です。とくぢ健康茶企業組合は2007年からカワラケツメイを地元農家、山口県立大学、地元の有志で栽培し、カワラケツメイ茶として栽培、製造、販売、卸に取り組んでいます。

 理事長の増田久美子さんは、以前はまったく違う仕事に就いていました。ずっと山口で暮らしてきて仕事も順調ななか、町おこしを目的とした徳地町(合併により現在は山口市徳地)主催の徳地づくりワークショップに参加したことがきっかけで、カワラケツメイ茶と出合ったそう。

 そこで増田さんは生産者が減少していると相談を受け、カワラケツメイ茶を途絶えさせるわけにはいかないと有志を集めて「とくぢ健康茶企業組合」を立ち上げました。設立1年目は赤字で倒産の危機に直面しましたが、このまま倒産して生産農家をがっかりさせたくないと、本業を退職。専属で勤務するようになり、今年で17年目になるそうです。

乾燥されたカワラケツメイ茶

 製造をしていくうちに増田さん自身がカワラケツメイ茶のおいしさに魅了され、今では販売とは別に自宅で栽培し、自ら加工して「マイカワラケツメイ茶」をつくるほど。マメ科の植物ということもあり、マメを炒ったような香ばしさと、どこか懐かしさも感じる風味です。食事とも相性がよく、夏は冷やして、冬は熱めで、毎日飲める飽きない味わいが魅力だそう。

 カワラケツメイ茶のおいしさをたくさんの人に知ってもらいたいと、地域の祭りや直売所での試飲会、ブレンド茶体験会も行っています。夏には直売所と共同開発したカワラケツメイ茶をフラペチーノ風にアレンジしたカワラフラッペも販売し、人気だったそうです。さまざまな活動が功を奏し、カワラケツメイ茶を直売所で知って好きになり製造したいと移住して従業員になる人や、栽培する若手農家も増えています。

子どもからお年寄りまで、ノンカフェインで体にやさしい

 カワラケツメイの葉と茎には、アントラキノンやミネラル、ビタミン、フラボノールなど、多くの有効成分が含まれていることが分かっています。徳地地区での栽培は完全無農薬でノンカフェインなので、子どもからお年寄りまで幅広く愛されています。

とくぢ健康茶企業組合の工場で健康茶ブレンド体験会

 筆者が運営する食育教室青空キッチンでは季節ごとのおやつメニューでお茶をいれるレッスンが登場します。5月に緑茶、6月に紅茶、10月はほうじ茶のいれ方を学びました。お茶にもたくさんの種類があること、お茶の種類によっていれ方が違うこと、実際に茶葉からいれることで香りも楽しめることなど、たくさんの発見が。日頃はペットボトルのお茶や、水出しティーパックなどで手軽に飲めるお茶も、子どもたちと一緒に茶葉から丁寧にいれてみると、楽しく食育するきっかけになり、地産地消の心につながります。

 カワラケツメイ茶は山口市内の直売所で購入できるほか、ネット販売も。とくじ健康茶企業組合ではオリジナルブレンドのお茶の開発にも力をいれています。安心安全、家族みんなで楽しめるカワラケツメイ茶を、ぜひ一度飲んでみてください。

<文/古賀瞳 写真・取材協力/とくぢ健康茶企業組合・増田久美子さん・都野了湖さん>

[地元の食文化から食育を考える]

古賀瞳
キッズ食育トレーナー/栄養士/3児の母
山口県山口市徳地で育つ。保育園栄養士の経験を生かし子ども達のやりたい!を叶えるためキッズ食育を学ぶ。子ども達が将来自分自身で幸せになる力を育むことをテーマに食育教室WAKUWAKUkitchen、青空キッチン防府スクールを主宰。