東広島市で冬のグルメを堪能。カキや地鶏をおいしい日本酒と楽しむ

広島県のほぼ中央に位置する東広島市。酒どころとして知られる西条の日本酒をはじめ、広島県が日本一の生産量を誇るカキやレモン、そして県内唯一のブランド地鶏など、豊かな食資源が魅力です。そんな東広島の食を支える生産者のみなさんに話を聞きました。

親子3代でつなぐ安芸津のカキ養殖業

4人の人が並んでいる
写真右から社長の美野富雄さん、妻の清美さん、孫の森也さん、息子の文博さん

 東広島市で唯一、瀬戸内海に面している安芸津地区。きれいな海で知られる三津湾には、広島を代表する海の幸、カキを養殖する事業者の建物が並びます。

「タコ漁をしていた私の父が、時化で海に出られない冬場のためにカキの養殖技術を習い、安芸津に広めたなかの1人です」。そう話すのは、親子3代でカキを養殖・販売する「マルムラ美野水産」社長の美野富雄さん。

水揚げしたカキを処理する様子
(写真左上・下)室内の作業場では、熟練の手仕事によってカキのカラむきが行われている(写真右下)5人のフィリピン人研修生も貴重な戦力

 安芸津のカキは濃厚でミネラル豊富なのが特徴。海に流れ込む川が少ないため、海水の塩分濃度が下がりにくいのが理由のひとつ。一方で、川から流れ込む栄養分の不足や、海底にたい積したカキの排泄物などによる海中の酸素不足が、カキの生育不良を起こしてしまうことも。

「台風は恐ろしいですが、まとまった雨が降ると海底がかき混ぜられて、カキのエサとなるプランクトンが育つという一面もあるんです」(美野さん)。近年では猛暑によって海水温が上昇するなど、自然を相手にすることの難しさを感じます。

テーブルの上の料理
ランチメニューの「手作りカキフライ御膳」(1900円)。夜は単品メニューもあり

 安芸津の海鮮料理店「藤田屋」では、創業以来、マルムラ美野水産のカキを使用。毎年、多くの人がカキ料理目当てに訪れ、なかでも人気はカキフライ。驚くほどサクサクの衣と、あふれ出るカキの濃いうま味が、あとを引くおいしさです。

千葉県から安芸津へ移住してレモン農家に

ビニールハウスの中でレモンに触れる男性
1本のレモンの木から40~50kgほどのレモンがとれ、ビニールハウスで計約3万個のレモンを栽培

 カキと並び、広島県が日本一の生産量を誇るレモン。安芸津の「甲斐農園」では、レモンをはじめジャガイモ、ミカン、ネギなどを生産しています。「温暖で雨が少ない安芸津の気候は、レモンの栽培にぴったり」と話すのは、園主の甲斐直樹さん。

 千葉県出身の甲斐さんは、かねてから興味のあった農業を始める機会を探っていたそう。「安芸津のジャガイモ農園が住み込みの研修生を募集しているのを見つけて、着の身着のまま広島に来ました。勉強を終えたら千葉に帰ろうと思っていたのですが、住むうちに瀬戸内海の気候や、食べもののおいしさにすっかり魅了されてしまって」

木になっているレモン
ビニールハウスのレモンは7月~4月頃が収穫時期。グリーンからだんだん黄味が増していく

 ジャガイモ農家として独立したのち、レモンの栽培を始めたのは10年ほど前。「年によって気候も変わるので、毎年、試行錯誤の繰り返しです」(甲斐さん)。横のつながりや後進指導にも力を入れ、県内のほかの地域のレモン農家との情報交換も行っているそうです。

畑の向こうに広がる海
ジャガイモ畑からは海が見える

 ジャガイモも安芸津の名産品のひとつ。安芸津でおもに栽培されているのは出島という品種で、この地域のミネラル豊富な赤土とも相性がよいそう。煮崩れしにくく甘味が強いので、肉ジャガなどの煮物やカレー、コロッケなどで食べるのがおすすめです。

 縁もゆかりもない地で農業を始めた甲斐さんは、今やすっかり地域の一員に。「よそものの自分が農業をやりたいという気持ちを、親身になってあと押ししてくれた安芸津のみなさんに感謝しています」

創業350年を迎える西条の酒蔵

座っている男性
専務の太田雅之さん

 2024年12月に日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことでも注目を浴びる日本酒。「西条酒蔵通り」には7軒の酒蔵が軒を連ねます。

 酒蔵通りの7つの酒蔵のうち、もっとも長い歴史をもつのが、創業1675年創業の「白牡丹酒造」。ロゴのデザインを版画家の棟方志功が手がけ、夏目漱石にも愛されたなど、著名な文化人ともゆかりが深い酒蔵です。

酒蔵の建物
2025年で創業350周年を迎える白牡丹酒造

 地元では甘口のイメージが定着している白牡丹のお酒。「口に含んだときにおいしいと思われるお酒を追求していたら、甘いながらも、あと味がすっきりした今の味にたどり着きました」と話すのは、専務の太田雅之さん。

 味わいの秘訣は、水にもあります。「西条の酒蔵が使う龍王山の伏流水は硬度が低く、発酵期間が長くなります。そうするとアミノ酸の量が増えて、うま味が強い、『うま口』のお酒ができるのです」(太田さん)。

建物内の様子
(写真右下)時計の上の版画は、創業300年のときに棟方志功氏から贈られたもの

「夜、仕事で疲れて帰ってきたときに一杯の日本酒で癒やされてほしい」と話す太田さん。伝統を受け継ぎながらも、常に暮らしのかたわらにあるお酒をつくり続けていきます。

大学の研究員からブランド地鶏を支えるために起業

座って話している男性
代表の竹之内さん。社名の「ガルス」はニワトリの学名

 広島大学と東広島市が共同開発した、県内唯一のブランド地鶏「東広島こい地鶏」。この鶏肉の生産を支えているのが、ベンチャー企業「ガルス・ジャパン」の代表、竹之内惇さんです。

 広島大学の研究員として、こい地鶏の基となる「広大鶏」の開発から携わったのち、一念発起して起業。現在はこい地鶏のヒナを生産農家へ提供し、生産方法を指導する業務を行っています。

鶏舎の中にたくさんのニワトリがいる
ストレスの少ない広い鶏舎で自然交配によって生まれるこい地鶏。年間3000~4000羽のこい地鶏を出荷

 起業当初は苦労もしましたが、地域の人たちと0からつくり上げる楽しさもあったという竹之内さん。失敗を繰り返しながらも、開発を始めてから7年目にして、こい地鶏の商品化にこぎつけました。

緑に囲まれて立つ建物
緑に囲まれたガルス・ジャパンの事務所と鶏舎

 肉質がよい広大鶏のオスと、生産性が高い「ロードアイランドレッド」という品種のメスを交配させて生まれる、こい地鶏。「交配して雑種にすることで、2つの鶏のいいところ取りができ、免疫力もアップしました」(竹之内さん)

皿にのっている鶏肉
東広島こい地鶏

 こい地鶏の味の特徴は、ほどよいかみ応えと良質な脂。一般の鶏肉の3倍の期間をかけて飼育されているため、肉本来のうま味が凝縮されています。赤味と弾力が強いオスは炭火焼き、皮がやわらかく身の脂が多いメスは、ソテーや鍋などで食べるとおいしいそう。ガラでとったスープも、えぐみが少なく絶品です。

 現在、生ハム、燻製などの加工品も開発中。「こい地鶏は和洋中、なんにでも使える汎用性の高い鶏肉。西条の日本酒との相性も抜群なので、いろいろな料理で味わってほしいです」(竹之内さん)

 東広島市への観光・日本酒情報は、「東広島市観光協会」、「日本酒10」、「東広島おでかけナビ」でチェック。たくさんの熱意ある生産者が支える東広島の食を、ぜひ現地で味わってみてください。

<取材協力/東広島市産業部ブランド推進課 写真/星 亘(扶桑社) 取材・文/カラふる編集部>