京野菜を「振り売り」で農家がお届け。子どもの野菜嫌い解消にも

[地元の食文化から食育を考える]

全国に点在する「日本キッズ食育協会」のキッズ食育トレーナーは、各地で子どものための食育活動を行っています。伝え継ぎたい食文化、地元に根ざした食材の魅力を、日本全国のキッズ食育トレーナーがリポート。今回は京都府を中心に活動する羽山涼子さんが、「京野菜」の楽しみ方を紹介してくれました。

京野菜が京都の日常食「おばんざい」を支える

京野菜
賀茂トマト、賀茂ナス、万願寺唐辛子。夏は美味しい京野菜の旬です

 京都の「食」といえば、なんといっても京野菜。 京都の気候風土と肥沃な土壌、豊富な水を活かしてつくられ、京都の日常食である「おばんざい」を支えています。 

 おばんざいとは、京都の伝統料理のなかでも家庭料理として日常的に食べられているおかずのこと。普段の食事は手近な食材でお金も手間もかけず質素に、という京文化の表れで、旬の京野菜を使った煮物などが多いのです。

 最近は観光のお土産としても人気の京野菜ですが、今回は地元ならではの、ちょっと通な購入方法をご紹介します。

農家の女性が車で京野菜を売り歩く「振り売り」

振り売り
お客さん同士も会話に花が咲きます

 京都市は南側以外の三方を山に囲まれた盆地ですが、その麓に農地が広がっているため、市街地と農地が思っている以上に近い環境にあります。その農地で京野菜をつくっている農家さんは、市場や店舗に卸さずに独自の販売ルートで直接野菜を売りさばく、「振り売り」(ふりうり)をしています。

 振り売りというのは農家さんが朝とれた野菜を車に積んで、お客さんの家々を訪れながら売り歩く販売方法です。生産農家の女性が売りに行くことが多いので、京都では「野菜のおばちゃん」と呼ばれ親しまれています。決まった曜日の決まった時間に決まった場所に車を停めて販売するのですが、開始の合図は、得意先のチャイムを鳴らしたり、「お野菜どうどす」と声をかけたりすること。そうすると近所の奥様たちが出てきて、トラックの周りは一気に賑わいます。「いいいーしやーーきいもー」の焼き芋屋さん、「とーふーとーふー」とラッパをならす豆腐屋さんと似ています。

振り売り
その日、何が乗っているかは収穫具合で変わりますが、常時10種類ほどは乗っています

「今日はええおナスがあるよ」
「今日のコマツナは小さいけど、やわらかいさかい、おひたしにしたら最高よ」
「こないだ顔が見えんかったさかい心配したえ」

 野菜のおばちゃんは奥様たちを相手に世間話や料理の仕方など話に花を咲かせながら、朝とれたばかりの新鮮な野菜を賑やかに売りさばいていくのです。振り売りに出る農家さんは多品種を少量ずつ生産しているので、トラックの荷台にはたくさんの種類の野菜が乗っていて、そこに行けば必要なものがある程度そろいます。そうやって得意先の台所を支えてくれているのです。

京野菜の振り売りは子どもの好き嫌い克服にも

トマトの見分け方
奥様達からおいしいトマトの見分け方のレクチャーを受けることも

 近くに振り売りさんの販売ポイントがあるなら、お子さんが買いに行くのもおすすめです。小さな子どもだけで買い物できる環境が少なくなっている現代ですが、ここなら大丈夫!

「どこの子?」
「なにが欲しいん?」
「今日のトマトは大きいし甘いし最高よ」
「そっちよりこっちの方が大きいし、色もええよ」
「おばちゃんとこのおナスはおいしいさかい、お母さんに焼いてもらって食べてみ」

 そんな風に野菜のおばちゃんやご近所さんとお話しながら、子どもなりに「おいしそう」と感じた野菜を選んで買うことができます。

お支払い
おばちゃんに声をかけてお支払いまで自分でできるので自立心が育ちます。

 子どもたちは野菜のおばちゃんから野菜を買うのが大好きです。トマトは木で赤くなるまで熟した完熟トマト、大根は葉っぱがついていて大きさもいろいろ、キャベツを見れば、ときには青虫がいることも。

キャベツ
通常のルートへ卸すものと比べると農薬の量が少ないので、虫さんにとってもおいしい野菜のようです

 スーパーでの買い物で見る野菜とは違う風景に子どもたちはワクワクが止まりません。苦手な野菜も、おばちゃんにすすめられるとついつい挑戦してみたくなるもの。おばちゃんが「おいしいよ」と言って売ってくれた野菜は、実際においしく感じるのです。

生産者の顔が見える振り売りが京野菜の品質向上に

とれたてのトマト
とれたてのトマトは丸かじりが一番おいしい!

 京都人ははっきりとものを言わないと言われていますが、ここではそんなことはありません。得意先の奥様たちは「今日のキャベツは虫食いばっかりやな」とか「この間のお豆さんは固かったえ」などと遠慮なく評価します。そう言われた野菜のおばちゃんは、次回は奥様たちを黙らせる出来の野菜を持ってくるのです。

 こうして農家さんはお客さんの声を直接聞くことで、よりよい野菜づくりのヒントにしています。売り手と買い手の信頼関係があってこその会話。もちろん「この間のおナス、炊いたらほんまにおいしかったわあ」「あんたんとこのお野菜食べたら、ほかのは食べられんな」というほめの言葉もたくさんあるからこそ、野菜のおばちゃんもがんばれるのです。

 生産者の顔を見ながらこだわりの野菜を買う。そして生産者さんに消費者の声を直接届ける。このやりとりが京野菜の品質を向上させていき、全国に誇るブランド野菜となったのです。

 今回は京野菜の変わった販売ルートをご紹介しました。午前中、京都の道端で野菜を積んだ軽トラックを見かけたら、ぜひのぞいてみてください。京都自慢のおいしい京野菜に出合えますよ。

振り売り
野菜のおばちゃんは午前中に「振り売り」します

 こんな風に道端に軽トラックが停まっていたら振り売りさんかもしれません。「一見さんお断り」ではないので、観光中にも探してみてください。

<取材・文/羽山涼子>

[地元の食文化から食育を考える]

羽山涼子(はやまりょうこ)
京都市在住。二女の母。医師・日本キッズ食育協会マスタートレーナー
内科医として働くなかで、子どもの頃から自分の食について考える機会をたくさんもつことができれば、大人になってからも健康な生活を送ることができるのではないかと感じ、多くの子ども達にキッズ食育を届けるための活動をしている。

(社)日本キッズ食育協会認定 青空キッチン京都仁和寺スクール主宰