大豆を温泉で蒸して味噌を手づくり。山村のちょっと贅沢な女子会

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(2)]―

東京生まれ東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチのシェフである夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落で、忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。《第2回》

朝焼けなんて朝帰り以外に見たことなかったのに

夏は朝4~5時に起きます。

花と洗面器
庭には季節ごとに様々な花が咲く
 

山の生活になってからは、朝の始まりがとても早いです。
起きてすぐ、寝ぼけマナコでとりあえず日焼け止めクリームを顔に塗りたくる。ワークマンで買った作業パンツに履き替え、作業着に降格した着古しのシャツをはおる。

虫よけネットと首の日よけが一体化した作業帽子をかぶり、剪定ハサミ・軍手・誘引用の麻ひも・油性マジック・マスキングテープを入れた革使いのショルダーバックを肩にかける。
(あぁ、このバックもおしゃれ用のバックだったのに、なぜに剪定鋏が2つも入っているのだろうか…)

AIGLEのカーキレインブーツを履いたら、家の前にある畑へ出動。
(あぁ、このレインブーツも街履き用にできるぐらい素敵だったはずなのに。なぜに2年目にして泥やペンキで何色かもわからず、所々破けていたりするのだろうか…)

イタリアンインゲン
初夏に咲くイタリアンインゲンの花。花も美味しい
 

畑へ行き、まずは5反の野菜畑に水やりをします。日中の暑い日差しに照らされても枯れないようにたっぷりしっかりと。軽く1時間以上はかかる作業です。

寝ぼけていた私の目も開き、薄暗かった空がぐんぐん明るくなり、「あぁ、今朝も朝焼けが美しい」などと思いながら作業が終わるころには完全に太陽が昇り切り、その日差しの熱さに汗だくになっています。

きれいな水、温泉。産山村にはぜいたくがある

朝一番に畑の水やりが終わると朝食です。水源を2つも有する産山のきれいな水で育ったお米とお味噌汁と納豆にあと何か一品。お米は産山村の生産者さんから玄米で購入し、前夜に精米して朝炊くという贅沢。
お味噌汁に使う味噌は自家製。自家製の味噌のうまさは産山で教わりました。本当においしく、市販の味噌では満足できなくなっています。

その味噌は年に一度冬の時期に産山女子会(産山の女性は誰でも参加できるゆる~い会)&食育(食育推進協議会)のメンバーで仕込みます。仕込んだ味噌は、参加者の各家庭に分けられ、熟成させ半年後くらいから食卓に登場します。

温泉煙
もくもくと温泉の蒸気がでている岳の湯(写真:産山村女子会webより)
 

味噌仕込みのファーストステップは、大豆蒸し。一般的には鍋で蒸したり煮たりしますが、この味噌作りでは、車で約40分の地獄蒸しが有名な「岳の湯温泉」の熱い熱い蒸気で一晩蒸します。

その大豆を翌朝モワモワと湯気をあげたままキッチン設備に運びこみ味噌づくりが始まります。みんなでおしゃべりしながら蒸した大豆をもみ砕き、米麹を混ぜ込んでいく…。1人だと大変な作業も皆とだと楽しく進み時間も短く感じます。

秋の終わりに移住して最初に誘われたのが、冬の始まりのこの味噌づくりでした。その年は普通の大豆と黒豆大豆の二種類の味噌をつくりましたが、自分で味噌がつくれるなんて本当にすごい!とワクワクしたし楽しかったのです。

かまど
産山村への移住希望者の為の“お試し住宅”にあるかまど(写真:産山村女子会webより)
 

村民女子会はみんなでワイワイ交流できる場所

その後も産山女子会や食育に参加させてもらい“羽釜とかまど”でご飯を炊いたり、日本茶の葉っぱを摘んで揉んで発酵させて和紅茶をつくったり、だご汁をつくったり、スパイスから手作りの本格派インドカレーを教わったり、味噌玉や非常時のご飯などをつくったりもしました。

講師は基本、村民です。教わりたい料理を得意な方に依頼して講師になってもらいます。
メンバーは、移住の方も1/3くらい参加しています。私はこの会のおかげで、自分の集落以外のさまざまな年齢層の方と知り合い、お話をするキッカケができました。
(今年は食育の会の若返りをねらい、なんと私が会長に!)

農業は打ち合わせと天気チェックが日課

そんな、産山村の滋味を朝ごはんで味わいながら、再び気温や天気をチェック。夫と一緒の作業は喧嘩になることもあるので、内心別作業だといいなーなどと思いながら、今日の作業の打ち合わせをします。天気次第で作業の変更もあるのです。

大豆の作業
大豆や小豆の収穫風景。当初は、古い木製のとうみ(大豆脱穀&選別機)で手回しで作業。翌年は電動のとうみをお借りし…早かった!
 

基本的に力仕事の畑を耕したり整地したりするのは旦那仕事。細かい種をまいたり苗を植え替えたり水やりや収穫出荷は私仕事。
ただ「チームふたり」なので、なんでも共同作業が基本です。美大卒文科系の私が、薪を運んだり、落ち葉たい肥や一輪車で野草を運んだり、コンクリート練ったり、管理機で畝を立てたりしています。

夏は暗くなる19時過ぎまで作業が続きます。暗くなるころには疲れきってしまい必然的に早寝。今どきの小学生よりも早寝をするもうすぐ50歳がここに居るのです。

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし]―

折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手おもちゃメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランを行っている。