狩猟免許を取得した女性。ジビエ肉を加工し「命をいただくこと」を実感

野生鳥獣による全国の農作物被害は約155億円(農水省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況」令和3年度)、捕獲数も大幅に増えています。一方で捕獲後に食用化されるのはわずか1割程度。キッズ食育トレーナーの黒川未紗さんは、自ら問題を実感するため、狩猟免許を取得しました。

狩猟免許を取得し解体も経験

農作物を荒らす野生動物

 野生鳥獣による農作物の被害は、農業を続けることが困難になり廃業してしまう人も出てきているほどだそうです。被害が増えた理由はさまざまありますが、野生の動物が生息する森や林を人間が開拓・介入したことにより、動物本来の生活ができない状況になっていることも理由のひとつといわれています。

 農作物の被害を抑制する目的で野生動物が駆除され、捕獲数は大幅に増えている一方で、捕獲後に食肉として利用されるのはわずか1割程度。人間の都合で捕獲しているのにも関わらず、その大半がむだになっているという事実を知ったときには、とてもモヤモヤした気持ちになりました。

 この気持ちと向き合うために、筆者は2021年に狩猟免許を取得。そして実際にわな猟を行い、捕獲後は解体も。自分で体験して、捕獲や解体がいかに大変で、おいしくいただくためにはどれだけの繊細な作業と熱量が必要であるかということを実感したのです。

 同時に、目の前の命と向き合いながら、命をいただくことで私たちは生きているということを、より身近に感じることができました。

ジビエ肉を加工するシャルキュトリーで働く

シャルキュトリー

 筆者がキッズ食育トレーナーをしながら働く千葉県木更津市のサステナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS」のシャルキュトリーでは、ジビエ肉を積極的に使用しており、常に20種類以上のハムやソーセージなどの商品を販売しています。
※シャルキュトリー(フランス語でベーコン、ハム、ソーセージ、テリーヌなど、食肉加工品全般の総称)

岡田シェフ

 ここで使われているイノシシやシカなどのジビエ肉は木更津市内で近隣の猟師が獲ったもので、捕獲後30分以内に止め刺し(とどめを刺す)作業をし、施設に隣接する食肉処理場に直接運び込んでいます。

「ジビエは個体の個性にあわせて迅速に処理することが大事」と話すのは、シャルキュトリーで数々の商品を開発・製造している岡田修シェフ。ジビエをおいしくいただくには、捕獲から解体までの処理、血抜きなどを速やかかつ適切に行い、しっかり熟成させることが大切というのは、筆者も実感したことでした。

 自身も狩猟免許をもち、狩猟もこなす岡田シェフは、自ら解体作業も行います。そのため、さまざまな部位の特徴を理解して、おいしさを引き出す使い方を熟知しています。もちろん個体差に応じた処理と加工をすることもできます。

 正しく処理されたジビエには臭みや硬さが出にくいため、初めて食べる子どもたちも「おいしかった!」と笑顔で食べますし、過去に苦手意識があった人でもおいしさに驚いたという声をよく聞きます。

命を無駄なく循環させるために

加工中のスタッフ

 捕獲動物の解体から商品へ加工していく工程を手伝うなかで、「むだをなくし、すべてを循環させていかしたい」という岡田シェフの思いと、ジビエに向き合う姿勢、職人技に、日々、感銘を受けています。

 人類は大昔、豚や鶏などの動物を家畜化する前までは、日常的に野生動物を狩猟して食べていました。動物の尊い生命をいただく代わりに、肉から内臓、骨、血液に至るまで、すべての部位を余すことなく料理に使い、生命に感謝の気持ちをもつということを当たり前にしてきました。

 現在では、食卓に運ばれる食材がどのような過程を経てきたのかを把握するのは容易ではないですが、興味をもって調べたり思いをはせたり、感謝の気持ちをもつことが、まずは大事だと思います。
 たくさんの人にジビエのおいしさを知ってもらいたい、もっと身近に感じていただきたい、そう強く願っています。

<取材・文/黒川未紗 写真提供/KURKKU FIELDS>

[地元の食文化から食育を考える]

黒川未紗
千葉県千葉市在住。1児の母。(社)日本キッズ食育協会認定 認定トレーナー、青空キッチン千葉登戸スクールを主宰。一般社団法人日本キッズ食育協会の本部にて、企画関連の仕事にも携わる。
小さい頃から食べることが楽しい、生きていくうえで大切ということを体感してほしいという思いで、子どもたちに向けた食育の活動を行っている。