―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(33)]―
東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は、移住先での計画についてをレポート。
サプライズプレゼントの防護服を身につけて採蜜へ
「日本ミツバチの巣箱から採蜜するけん、手伝いがてら見学くると?」とお声がかかったのは9月末だったか。声をかけてくれたのは、人生後半を故郷でとUターンしてきた近隣集落の方。田んぼで稲作をしたり、釣りをしたり、陶芸をしたり毎日忙しく過ごしています。
蜂蜜採取の当日。出かける直前に、またもやサプライズプレゼントが!
「こんな日のために買っておきましたよー。じゃーん!!」と夫がうれしそうに倉庫にしている小屋から出してきたのは、蜂防護服…。いつの間にこんなものを買ったのか!? とびっくりしながらも、こんなのを着たら大げさじゃない?と半信半疑の私でしたが、すぐに大げさじゃないことが判明。
スパイクつき地下足袋に続き、再びテンションの上がらないサプライズプレゼント攻撃。そんな衝撃が冷めやらぬまま日本ミツバチの採取場所へ向かったのです。
行くと、ご自宅の周りの広い敷地内に5~6箱の巣箱が置いてありました。各巣箱は2段から3段の箱を積み上げてあります。この時点ですでにたくさんの日本ミツバチと、それを狙うアカバチやスズメバチがブンブン飛んでいます。
その様子を見て、「確かにこの防護服は必要だな…」と悔しいながらも認めざるを得ませんでした(笑)。
ちなみに日本ミツバチは刺したら自分も死んでしまうので、よっぽどのことがない限り刺しません(スズメバチは死なないので何度も何度も気軽に?刺してきます)。ですが、日本ミツバチがせっせとためてきた植物の蜜をいただくのですから、刺してくるつもりでの準備が必要となります。
蜂蜜ドロボーなので、やはり防護服は必要
気楽に写真が撮れたのはここまで。まずは、ワイヤーや巣箱の掃除グッズや追加する空の巣箱を持って、本日のターゲットとなる巣箱に近づきます。
積みあげてあった巣箱を安定している地面に置き、1段目と2段目の箱の隙間にワイヤーをはわせて、手前に引きながらワイヤーで巣を引き切ります。切れたら1段目の巣箱を外し、最下段の巣箱の下に持ってきた空巣箱を足します。そして、置く場所を軽く掃除してから設置位置に戻します。
この時点で「不審者発見!!」「なにするんだー!!」「蜜ドロボー!!」などと言いながら(たぶん)、ミツバチが大量に飛び回って寄ってきます。完全防備なので安心ですが、動きにくいし手先の動きは奪われてしまうしと、作業するには不自由なもの。
外した巣箱の中にはハニカム状の板が通常7~8枚入っているそう。今回は少なく5枚でした。
各ハニカムに蜜蝋でふたがしてあります。ふたがないところは蜂蜜がまだ入ってないか、すでに食べた後の空状態かです。日本ミツバチは自分で採取した蜂蜜を花がない寒い時期に食べて命をつなぎます。
「今年はふたしてある部分が少なかもんねー」と巣箱の持ち主さん。長い長い雨の影響もあるのかもしれません。
ハニカムを割ったり切ったりしながら、布袋や洗濯ネットに入れて蜜だけが垂れるように設置し数日かけて蜜を採るそうです。
移住生活は初めてのことだらけなので、気軽にいろいろと教えてくれる人生の先輩方々はありがたい! 知りたいことがあると、あっちからもこっちからも自称その道のプロが出てくる出てくる。そしてうれしそうに自分の技術や知識を教えてくれます。
さて、キュッフェ農園の蜂蜜は? と言いますと…まだミツバチが入りたての巣箱。食料となる蜂蜜を採ってしまったら、寒くて長い産山村の冬を越せずに死んでしまうかもしれない。ということで夫婦の会話の結果、この秋の採蜜は来年までのお楽しみとなりました。
折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手おもちゃメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。