九州なのに冬は雪で休業。山村のレストランはいろいろ大変

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(36)]―

東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は、冬の間の仕事についてをレポート。

南国熊本だけどレストランは寒くて冬季休業

うぶやまキュフェ
今シーズンは雪が降る回数が多い

 寒い寒い冬。昼も夜もマイナスの世界は『冬は凍らないように冷蔵庫へ。南国熊本なのに山村では極寒暮らし』で書きましたが、「冬のお店休業中の間は、なにしているんですか?」とよく聞かれます。

 asoうぶやまキュッフェは、オープンした年と翌年はがんばって1月も営業をしていました。ただ、阿蘇の奥の産山村のさらに奥地にあり、たどり着く直前にはわりと急な坂道がある場所。雪が降ったら、四駆かつスタッドレスを装着した車でないと安全には来られません。

 雪でなくてもマイナス気温続きの日々では、道中あちらからこちらからのちょっとした湧き水が凍っていて滑ったりする危険も潜んでいます。雪予報が出るたびにお客さま全員とやり取りが必要で、ほどほどの降雪の場合は、四駆スタッドレスの方には気をつけながら来ていただいたりしました。

 阿蘇のふもとの天気が雨だったとしても、阿蘇を上がってくる途中で雪混じりのみぞれになり、雪になり、山頂近くでは吹雪いてくることもあります。「でも、せっかくここまで来たのだから…」とがんばってキュッフェに到着し、お店で2~3時間かけて食事をし、さぁ帰ろう!と思ったら雪が積もっていて帰れない! なんてことも。

 そんなことから、大雪予報になった日は「まだ出発していませんように…」と願いつつ、すべてのお客様にキャンセル願いの連絡を朝から大急ぎで入れたりしていました。

 そして、もう1つ大きな問題がありました。それは、メインのジビエ肉。営業のためにジビエのお肉を一頭買い(数十kg)をしているので、ちょこちょこ休業することによる食材ロスも悩ましい。もちろん無駄にはせずに煮込みにしたりし、保存できるようにしていますが。

 加えて、ここ2年ほどは、コロナ感染拡大防止のための休業や時短営業の要請などでたびたびお休みしていました。

冬はブドウの木の剪定に専念

畑
冬の晴れた日。凍てつく寒さの中、一次剪定の作業をする

 キュッフェの仕事とは別に、冬の大仕事といえばワイン用に植えた1700本のブドウの木の剪定や、枝やツルを這わすためのワイヤー張り、ワイヤーを張るための支柱建てなどの作業があります。

 毎日朝から夕方まで作業しても数週間はかかる。そんなことを考えた結果、思いきって1月2月は店舗を休業しようと決めました。

 そこで、冒頭の質問の答えになりますが、冬の間のメイン作業は、木が冬眠状態の時に行うブドウの木の剪定をしています。

 その間収入はゼロに近くなりますが(ドキドキもしますよ)、計画的にさまざまな作業ができる点と土日を使って普段はなかなか会えない人に会っていろいろな話を聞き勉強したりアドバイスをもらえたりと、お金の価値には変えがたい大事な期間に。

 キュッフェのワイン用のブドウ畑は、棚仕立てではなく垣根仕立てです。1本1本ブドウの木を見ながら、今年はこの子にどう成長してもらおうかな、そして来年はどこの芽をどんな風に伸ばしてあげようかな、などと考えながら芽がでる予定の枝のふっくらした部分を数えつつ、去年の夏に成長した枝のうち不要な部分をバッサリと切っていきます。

自分たちがいいと思うことを選ぶのが大事

ブドウ
2021年の夏。イタチなどの動物にも好評だったブドウ

 ブドウも植物であり自然のものですから、都合のよいところに芽がなかったり、伸ばしたい方向とは逆に向いていたりと思うようにいかないことが多々あります。それでも今年は昨年の3倍は収穫したいと意気込んでいるので、1本1本じっくりと時間を掛けて剪定しています(ちなみに、昨年は実験的に収穫したので、そう多い収穫量ではありません)。

 今自分が悩んで考えて剪定した結果が、春から夏秋にかけて結果が出ます。元気な木、ちょっと弱っている木、元気すぎて暴れている木、窮屈そうな木、優等生な木、虫に入られて枯れてしまった木などさまざま。全体を考えつつ、それぞれの木にベストな剪定を考えます。

 最終目的はワイン用になるブドウの実の収穫なので、きっちりきれいに剪定できてもそれが正解とは限りません。数か月後に、こうするよりも、ああすればよかったなぁと思っても軌道修正できるのは1年後。

色づきかけたブドウ
2022年はどれだけ収穫できるかな

 最初の頃は理想の仕立て方にこだわるあまり、こうしたらダメだ! こうじゃないといけない!! などと神経質に剪定していました。

 でも、去年いろいろな方にアドバイスを受けたり、畑を見学させてもらったり、話をしたり、勉強したりした結果、「自分たちのブドウだから自分たちがいいと思うように決めていいんだなー」という結論にたどり着きました。そう思ってからは自分が考えて選定したブドウたちの成長が今まで以上に楽しみに!!

 あらためて言葉にするとあまりにも当たり前のような考えですが、この考えは移住生活の全般にも当てはまる言葉だなぁ、としみじみ思う今日この頃です。

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし]―

折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手おもちゃメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。