北海道札幌市で生まれ石狩市で育ち、東京や中国・天津市でもさまざまなキャリアを積んだ後、2021年の暮れに北海道天塩町へ移住。現在は地域おこし協力隊として活動する三國秀美さんが、日々の暮らしを発信します。今回は、収穫の秋に味わったホクホクのムカゴ飯や、手づくりこんにゃくを使った開拓汁をレポート。
ご近所の有志が集まってムカゴ飯を味わう
天塩町の人口は約2700人。こうした小さな町に移住してすぐに気がついたのは、近所づき合いにおける距離感のよさです。まるで親せきが集まるコミュニティのような居心地のよさが追い風になり、私はすぐに土地に溶け込むことができました。
秋が深まった頃、食文化を根気よく教えてくれるメンターのような存在、伊藤千枝子さんの声がけで有志が集まり、ランチ会が開催されました。お手伝いを兼ねてご一緒しましたが、こんにゃくイモやムカゴなど初めて見る食材に、まだまだ天塩町民初心者だと実感。毎日が発見の生活は続いています。
ムカゴ飯は一見すると豆ご飯。ですが、ひとくち口に入れるとほっこりとした食感が広がります。口の中で皮がつぶれ、カプセルに入ったナガイモが、まさにとろろのように変身するびっくりご飯。ムカゴとは脇芽のことですが、ナガイモのムカゴは移住してから初めて目にしました。これを土に植えるとナガイモになるそうです。
ナガイモは北海道内で広く栽培されるポピュラーな作物です。そのムカゴは新米と合わせて炊くと素朴な味で食が進み、手をかゆくしてすりおろす必要もなし。それでいてナガイモ同様栄養価が高いという、いいことずくめです。
「すり鉢で転がしたり、両手でもみ洗いして固い皮を取り、水につけてアクを抜いて、そのまま炊くとムカゴ飯のでき上がり。カニを入れて昆布だしやしょうゆを加えて炊き込むと、おもてなしごはんになるわね」と伊藤さん。道北の味覚を使ったムカゴ飯は、収穫の秋を祝うのにもってこいです。
こんにゃくイモからこんにゃくを手づくり
今回のもうひとつの主役はこんにゃくイモ。この日を迎えるまでご近所同士で育て、なかには名前をつけて見守る人もいたそう。そうして成長したイモは、おいしいこんにゃくに姿を変え、この日の隠れた主役となりました。
ランチの前には、みんなのこんにゃくイモの品評会が行われました。小さな町で家庭菜園から食事会まで、みんながそろって参加。都会ではなかなかできない老化予防法だと感じます。こうした風景は、私が思う天塩町の自慢のひとつです。
さて、こんにゃくのつくり方ですが、まずは手がかゆくならないよう気をつけながらこんにゃくイモの皮をむき、水を加えてミキサーで混ぜて凝固剤(精製ソーダ)を入れます。そのあとは内部温度80℃を目指して10分から20分ほどひたすら練り続け、透明感と粘りがでたら完成。混ぜている間は鍋底で焦げつかないよう、ヘラを動かし続けなければなりません。
こんにゃく、キクラゲ、だんごの入った具だくさんの「開拓汁」
この日つくった「開拓汁」は伊藤さんの母であるシゲノさんが、ふるまいとして来客時に出していた汁物。収穫した野菜に加え、地元で採れたキクラゲやユウガオのワタなどを入れて、しょうゆ味に仕上げた郷土料理です。今回の主役であるこんにゃく、そしてカボチャだんごまで入った開拓汁は体が温まり、冬を迎える体づくりを支えてくれそうです。
雪がちらつき、すっかり冬らしくなった天塩町。ちゃんと栄養がとれるなら少しばかり体重が増えてもいいかも、と思いながら、根雪前のひとときに笑顔でランチ会を楽しみました。
<取材・文・写真/三國秀美>
【三國秀美(みくにひでみ)さん】
北海道札幌市生まれ。北海道大学卒。ITプランナー、書籍編集者、市場リサーチャーを経てデザイン・ジャーナリスト活動を行うかたわら、東洋医学に出会う。鍼灸等の国家資格を取得後、東京都内にて開業。のちに渡中し天津市内のホテル内SPAに在籍するも、コロナ感染症拡大にともない帰国。心機一転、地域おこし協力隊として夕日の町、北海道天塩町に移住。