山奥の村でつくったスパイスカレー。本格的過ぎでみんなビックリ

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(9)]―

東京生まれ東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチのシェフである夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落で、忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。《第9回》

スパイスカレーづくり。人気の先生はマニアックなお料理男子

 食育の会(食育促進協議会)のみそづくりの話は第2回目にしましたが…
そのみそづくりと同じくらい人気の回はスパイスカレーづくり。
 毎年のこの回の先生は、移住15年目のお料理上手ベジタリアン産山在住男子(とはいえ50歳の男子…食育の会のメンバーでもあり)です。

 男性にありがちな、凝り性のお料理をさらに超えたマニアックぶりのお料理の腕前の持ち主。さまざまなスパイスをブレンドし、つくったオリジナルスパイスで、ベジ料理の代表ともいえるインドカレーをつくる回です。お肉が食べられない彼の日常的な食事でもあるカレーを、ほかの食育のメンバーに教えてくれます。

 さて、どれだけマニアックなのか? この日のメニューを書き出してみましょう。

野菜のサンバル(トゥール豆スープ)
ラッサム(トマトスープ)
野菜とムング豆のポリヤル(炒め物)
レモンジーライス(レモン風味のクミンご飯)
ドーサマサラ(ジャガイモとタマネギのサラダ)
ウラド豆のドーサ(インド風クレープ)

といったところ。

カレー皿盛り
まるでどこかのお店で出るような一皿に仕上がった

未知なる味をイメージしながらみんなでワイワイ

 配られたレシピを見た時点では、どんな料理になるか想像できず。未知なる味を、書き出してある食材を見ながら一生懸命に想像してみるもわからず…。この日集まった幅広い年齢層の産山村の女性たちも、聞きなれない単語を何度も聞き返しながらのスタート!

 初めての単語に?マークを3つくらい頭上に浮かべながらも、さすがはキッチンのベテランでもある女性たち。あっという間に手際よく野菜の切り出しを始め、あっという間にお湯をわかし、あっという間にジャガイモやカボチャをゆで、次なる工程をワクワクしながら待ってます。

 手際のよい作業の合間にはマニアック先生から、各スパイスの説明が入ったり、お料理ごとに分けたチーム間での味見があったりとにぎやかに楽しくおしゃべりが盛り上がります。

ドーサマサラ
おいしくなりますように、と思いながらドーサマサラを混ぜる

 その間にも調理をしている、この公民館のキッチンにスパイスの良い香りが立ち込めていきます。気のせいか身も心にもスパイスが効いてきたようで、空腹を感じはじめます。

 なお、毎回食育の実習レシピはクックパッドに産山村のゆるキャラ/うぶちゃんネームでアップされます。よかったら「産山のうぶちゃんのキッチン」をチェックしてみてください。このインドカレーのレシピもアップされてます。

 レシピアップ担当者は、移住8年目の穏やかな美女が担当。毎回毎回詳しくメモったり写真を撮ったり、聞き漏らしのないように、ほかの人より真剣な顔つきで聞いてます。

まるでお店で出会うような1皿が完成!!

 このスパイスカレーの回は、メニューの数が多いので時間内につくり終わるか心配でしたが、いざ始めてみると、キッチン仕事ベテランの女性たちのパワーとマニアック先生の事前準備の万端さで、予定の時間内にすべての調理が終わり、すばらしいプレートが参加人数分出来上がりました。

 先生のイメージに合わせ事前に用意した紙皿に盛りつけ、さらに産山村でエディブルフラワーとハーブをメインに栽培している女性(活動名・ふぁとりあ)からのありがたい差し入れで、お花やリーフをプレートに飾りつけし、ワンランクもツーランクも上の豪華な仕上がりに!!!

エディブルフラワーやハーブ
エディブルフラワーやハーブなどを飾ってさらに素敵な一皿に!

 小さな村の小さな集まりとは到底思えない、完成度の高い食育の会の実食が、さぁ始まります。
 まずは完成した素敵プレートの撮影大会がワイワイとスタート。撮影がひと段落したら、みんなでいただきます。

 大体が野菜をメインの材料とし、塩とスパイスで味つけしただけのもの。なのに、こんなに味のバリエーションがあり、しかも味わい深いなんて…。野菜やかんきつの酸味と複雑なスパイスの組み合わせに、新しい扉を開いて未知の世界を見たような驚きがみんなにあったようです。

 たくさんつくりすぎたかな?と思ったお料理たちも「おいしい! おいしい!」と食べ、ほとんどが完食。

 先生が用意してくれたお持ち帰りスパイスを、各自各家庭に持ち帰りどう使うのかも楽しみ! 次回、どんな料理に使ったのか聞いてみよう。

楽しい実食時間
老若男女問わず実食はわくわくするもの

 こんな風に一見、ただ好きなものをつくって食べているようにみえるこの食育の会。ですが、食育の会長としては、裏テーマとして「野菜の種類の少ない冬だからこその、バリエーションとしてのスパイスを使った野菜料理」と「健康のために減塩しても満足のいく味つけにスパイスやハーブの利用」を意識しました。

 もちろん単純に皆でお料理をすることによって、料理の楽しさや食事の大切さなどを再確認し、あらためて食について考えてもらえるだけで大成功です。

 2019年度は「村の漬物名人のご年配の方に自慢の漬物をおそわろう!」がメインテーマでしたが、天候やさまざまなタイミングがうまく合わずに漬物の回は1回だけ。
 楽しみにしていた緑茶の葉っぱでつくる和紅茶も、長雨の影響で中止。ちょっとしょんぼりしていたメンバーもスパイスカレーの回を満喫してくれたようでした。

 次回は3月中旬の恒例のみそづくり! 温泉で蒸しした大豆と阿蘇の麹屋さんの米麹とで仕込むみそ。ファンもたくさんいるので、例年どおりの人気の回になりそうです。

*写真は、食育メンバーでもある“産山のホリエモン”による撮影

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし]―

折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手おもちゃメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストラン「Asoうぶやまキュッフェ」を営んでいる。