ジビエが給食で登場。農作物被害を減らしつつ食育に生かす試み

農作物に被害を及ぼすことの多いイノシシやシカ。熊本県ではそんな動物を、捕獲してジビエに加工し、おいしく活用しています。地元のキッズ食育トレーナー、中村早百合さんが教えてくれました。

捕獲されたイノシシやシカを町内の施設で加工

ジビエ肉スタッフ

 熊本県上益城郡山都町では、野生のイノシシやシカが農作物に大きな被害を与えています。解決策のひとつとして、捕獲して食用肉(ジビエ)に加工する取り組みが始められました。

 ジビエはフランス語で「狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉」を意味する言葉。家畜として育てた牛や豚などと違い、野生の動物を狩猟し、加工したものです。

 ジビエとして食べられているのはイノシシ、シカ、クマ、カモなど。最近ではジビエを世に広めようという動きが盛んになっているので、レストランなどで見たことがあるかもしれません。

ジビエ肉

 山都町のイノシシやシカによる農林産物の被害額は年間2000万円前後で推移しており、とくに被害が大きいのは稲作。食べられていない稲穂にもイノシシやシカのにおいがついてしまい、その田んぼの米が収穫できないできないことがあるそう。
 山都町では農林産物の被害を抑えるために、有害鳥獣捕獲隊による捕獲活動を行っています。

ジビエ工房やまと

 捕獲したイノシシやシカは町内の鳥獣処理加工施設「ジビエ工房やまと」で解体、食肉加工処理して販売されます。ジビエは臭いというイメージを持つ人もいますが、最近では加工技術の発達により、臭みのない質の高いジビエが提供されています。

 苦手だと思い込んでいた私も、実際食べてみて豚肉や馬肉と変わらないおいしさに驚きました。わが家の2歳と4歳の子どもたちはいつものお肉と変わらずおいしく食べており、とくにイノシシ肉のハンバーグが大好きです。ジビエ肉は基本的にタンパク質が多くて脂質が少なく栄養価が高いのがうれしいですね。

学校給食や学生食堂でジビエを普及

大学生

 熊本県の学校給食では毎月、食育の日を設けて、自治体の食材を多く活用したメニューが提供されています。山都町内の小・中学校給食では地元のジビエを使用したメニューがあり、生徒さんに好評だそうです。

 ジビエを給食で提供することで、命をいただくこと、ジビエを捕獲している猟師さんや解体処理業者さんへの感謝、有害鳥獣をジビエとして活用することで農作物を守っていることなど、子どもたちの「いただきます」の心を育てる教材にもなっているようです。

食育の日メニュー

 筆者が、特任講師を務めさせていただいている熊本県立大学の学生食堂でも月に1回、県内産の食材を活用した食育の日を実施しています。食育の日のメニューは有志の学生が視察を通して地域の食材を学び、何度も試作して完成させたオリジナルメニューを提供しています。

視察

大学の食育推進事業でジビエを学び、メニューも開発

 大学の食育推進事業では、実地研修として「ジビエ工房やまと」でジビエ肉の加工現場を見学し、現状を学びます。ジビエ工房やまと施設長の岩田陽一さんは「鳥獣の被害から私たちの生活を守るために有害鳥獣を捕獲する必要がありますが、絶ってしまった命を食肉として命の連鎖につなげることができれば」と話してくださいました。

 食肉の加工現場を視察する機会はなかなかありません。実際に処理施設や半身のシカ肉を見学し、大学生は普段自分たちが食べている食肉も出荷元や加工現場があってこそおいしく食べられることや、命をいただくことの重さを実感したようです。

試作

 メニュー開発では、地域のフィールドで学んだ情報を生かして、大学生がたくさんの意見を出しながらメニューを作成。マーケティングの目線から、または管理栄養士の卵としての栄養学的な目線から魅力的なメニューができ上がります。広報用のポスター作成や食育の日当日の学生食堂でのステージ発表にも携わります。

ステージ発表

 学生食堂でのジビエ提供の感想は「クセがなくおいしい」という声が多く、大変好評。また、ジビエのみではなく、ポスターやチラシで地域の情報提供も行うので地域に興味を持ったという声も聞かれます。

パンフレット

「食育の日」はジビエの認知度を上げるだけではなく、地元の食材を通した地域の活性化(地方創生)も目的としているのです。
 熊本県立大学の食育の日において、山都町のジビエ肉をテーマに取り上げるようになり今年で3年目。コロナ禍で現地視察などの活動は制限されていますが、山都町取材の様子を動画で配信するなど、できることをデジタルを活用しながら模索しています。

 これからもジビエの普及活動を通して次世代を担う子どもたちや大学生に食や農へ感謝する気持ちを育んでほしいと思います。そして、農作物の鳥獣害被害が減り、持続可能な農作物の生産が続くよう祈っています。

<写真提供/山都町役場企画政策課 取材協力/ジビエ工房やまと 取材・文/中村早百合>

[地元の食文化から食育を考える]

中村早百合
熊本県在住。キッズ食育トレーナー/管理栄養士/熊本県立大学環境共生学部食育推進室特任講師/
2児の母。管理栄養士として特定保健指導など多くの方に携わるなかで、子どもの頃からの食育の大切さを痛感し、キッズ食育トレーナーを取得。幼児から大学生までの食育に携わる。
(社)日本キッズ食育協会認定 青空キッチン熊本尾ノ上スクール主宰。