熊本の香ばしい「釜炒り茶」。やさしく繊細な和紅茶も人気

おいしいお茶の産地熊本県には、全国生産量のほとんどをこの地でまかなっているという希少なお茶、「釜炒り茶」があります。風味豊かなおいしさの元となる古来の製法と、こだわりの製法を大切にする生産者を、熊本県の食育トレーナー、松野文枝さんが紹介してくれました。

直火で熱した鉄の窯で炒る「釜炒り茶」

岩永製茶園をひとりで管理する門内智子さん

 熊本県と宮崎五ヶ瀬の県境、標高600mの熊本県山都町馬見原(まみはら)は釜炒り茶の産地。門内智子さんは馬見原で1960年に創業した岩永製茶園をひとりで管理しています。
 釜炒り茶はもともと自生するお茶の樹(ヤマチャ)を利用して、300年~400年前からつくられ、藩主に献上していたという歴史あるお茶です。

お茶をいる釜

 生葉を蒸してつくる煎茶と違い、中国式の釜炒り製法で、直火で熱した鉄製の釜で葉を炒り、殺青(さっせい)と呼ばれる発酵を止める工程を経るのが特徴です。香ばしい釜香が風味よく、さわやかな味わいのお茶になります。

勾玉状の茶葉

 茶葉は釜で攪拌しながら乾燥させることで勾玉状になるため、釜炒り製玉緑茶という名称でも知られます。中国から15世紀頃に伝わったとされていて、煎茶が一般的になるまでは、すべて釜炒り製法でお茶がつくられていました。現在は主に九州の一部でつくられる希少なお茶です。

国産の茶葉でつくる「和紅茶」にも取り組む

和紅茶

 和紅茶は、日本で栽培された茶葉でつくられた紅茶のことです。門内さんが飲んでいた紅茶の茶葉のパッケージから、原産国はわかっても製品になる過程まで読み取れなかったことから、「うちの茶葉で顔の見える紅茶をつくれないか」と思ったことをきっかけに生産に取り組み始めたそう。今ではさまざまな賞を受賞するようになりました。

色味がキレイな和紅茶

 岩永製茶園の和紅茶は、やさしくて繊細な、渋味のない味わいで、ひと口飲むと「どこの紅茶ですか?」と必ず聞かれます。長く茶葉を湯につけておいても渋くならず、逆に甘味やうま味が増していくから不思議です。
 古の製法を大切に「釜炒り茶」を守り育むだけでなく、歴史ある知見をもとに新たな取り組みもいとわず挑戦する門内さんの生産者としての姿勢が、繊細な味わいにつながっているのかもしれません。

茶摘みは丁寧で大変な手作業

茶摘みの様子

 初夏の収穫時期になると、岩永製茶園では茶摘み体験ができます。「夏も近づく八十八夜~♪♪」子どもの頃に歌っていた茶摘みの歌がありましたが、八十八夜とは、立春から数えて八十八日目にあたる日。冬の間冬眠状態だったお茶の葉が春になりゆっくりと成長して一番茶として収穫に最適な時期となります。

お茶の新芽

 茶畑に行くと、かわいいVサインのような、やわらかい新芽がぴょんと生えているので、一芯二葉を丁寧に積んでいきます。この一番茶には栄養分や香りがいちばん詰まっています。丁寧に手で摘んだ新芽は、皆が収穫した茶葉を集めてもほんのわずかで、どれだけの労力が必要なのかと、茶摘みを初めて体験した時はびっくりしました。

子どももお茶摘み体験

 一番茶の収穫が終わると、二番茶の収穫をし、その収穫を終えると、茶の樹の手入れも、門内さんが1人で行います。門内さんがつくるお茶が好きな人たちが集まって、作業のお手伝いをする姿も。

 その集まった人たちの温かさに門内さんのお人柄を感じ、日々、茶樹と向き合いながら、地道な作業で思いを込めてつくられているところに、岩永製茶園さんのお茶のおいしさの秘密があるのだと思いました。

釜炒り茶、茶器とともに

 今は手軽にペットボトルやティーパックでお茶を飲める時代ですが、ときには自分の好きな茶葉を選び、急須で丁寧にお茶をいれてみるのはおすすめです。茶葉が開くまでのゆったりした時間に茶葉の様子を観察したり、香りを楽しんだり、子どもと地図を広げて熊本県を探してみたり、忙しく過ごす毎日だからこそ、一息つく時間をつくるきっかけにしてはいかがでしょう。

 自分でいれるお茶のいいところは、1つの茶葉でもお湯の温度や茶葉の量などで自由に風味を変えられることです。カフェインやお茶の効能など気になる場合でも、茶葉の選び方や淹れ方次第で安心して飲むことができます。自分へのごほうびに、丁寧につくられた熊本県岩永製茶園さんの想いのあるお茶を飲んでみませんか?

<写真・文/松野文枝>

―[地元の食文化から食育を考える]―

松野文枝さん
熊本市在住。1男1女の母。日本キッズ食育協会マスタートレーナー、青空キッチン熊本校主宰。東京から熊本に引っ越してきて9年目。おいしい食材が豊富な熊本生活を楽しんでいます。「食べることを大事にすることは生きることを大事にすること!」小さな頃から食育を学ぶことは、生きる力を培う事という思いを軸に子どもたちに食育を教えています。(社)日本キッズ食育協会

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