重さ2kg。ギネス認定された熊本の「晩白柚(ばんぺいゆ)」はワタまでおいしい

熊本県が生産量全体の約96%を占め、なかでも八代地方が主な産地のかんきつ、晩白柚(ばんぺいゆ)。ギネス認定された晩白柚を、熊本県の食育トレーナー、松野文枝さんが紹介します。

大きさも重さも世界最大級のかんきつ類

バスケットボールのような晩白柚

 晩白柚はザボンの仲間で、かんきつ類のなかで世界最大級の大きさを誇る果実です。原産国はマレー半島で、大正7(1918)年に台湾総督府に勤務していた熊本出身の植物学者、島田弥一氏によって台湾に輸入され、熊本に伝わりました。

 なかでも八代地方に備わっていた豊富な水源と排水のいい土壌、八代の温暖な気候などが晩白柚づくりに適しており、今では八代地方の冬の代表的な果実として地域農業の発展にも寄与しています。

 変わった名前の由来は、もともとは果肉が白い「白」、中国語で「丸いかんきつ」という意味の「柚」で「白柚(ぺいゆ)」と呼ばれていましたが、八代の土地、風土、気候で育てると、中国より遅い時期(12月)のほうが大きく育ち、おいしくなるということで、「晩生」の「晩」が前につき、「晩白柚」となったそうです。

子どもの顔より大きい晩白柚

 大きさは子どもの頭より大きく、普通サイズで直径20cm、重量は2000g位です。2021年にギネス記録に認定された晩白柚はさらに大きくて直径27.2cm、重量5386gと超ジャンボサイズです。

大きな果実を支える強くたくましい木

晩白柚が木になっている様子

 大きくて重い晩白柚はどのように木に実っているのでしょうか。今回、福田清和さんの果実園を取材させていただくにあたり、「重いから木が低いのではないか?」「1本の木に少ししか生らないのではないか?」という予測を立てて伺いました。

枝がしなっている様子

 広大な果実園に入ると、まぶしいくらい黄色く実った晩白柚が目に飛び込んできました。そして私の予測とは真逆で、木の背丈は高く、1本の木の高いところから地面の近くまでたくさん実をつけていました。

 重くて折れたりしないのか尋ねると、木が比較的やわらかいので心配ないそう。確かに大きな実をつけた枝は、下に柔軟に垂れ下がりながら実をしっかりと支えており、晩白柚の木は重たい実を守る力強くたくましい木であることがわかりました。

 また取材を通して、この大きくておいしい晩白柚をつくるための生産者さんたちの思いも伝わってきました。

 実の美しさを保つため、栽培途中ですべて手作業で袋がけをします。害虫や病気から守り、風に揺さぶられた大きい木の葉が実を傷をつけないようにするためだそうです。台風など自然災害の心配も大きく、実が大きいだけに落ちてしまうこともあるそうで、台風予報が出るととても心配しますと福田さんは言っていました。

 収穫した晩白柚は、出荷の前に「追熟」という作業をします。まだ青みがかっている実をビニールハウスに並べ、色が黄色くなるまで2週間くらい置くと、その間に酸味が抜けておいしくなるのです。

「今年も外観、味、大きさ、糖度すべてにおいて、おいしい晩白柚を出荷できたことをうれしく思う」と笑顔で教えてくれた福田さん。1年かけて愛情を込め、大切に育てている生産者さんの思いは、晩白柚のおいしさの大きな要素になっていることがわかりました。

ワタまでおいしく丸ごと楽しめる

迫力のまん丸い晩白柚

 晩白柚は大きいだけではなく、捨てるところなく丸ごと楽しむことができるのも特徴のひとつ。おすすめの3つの方法を紹介します。

①さわやかな香りを長く楽しむ

 晩白柚は保存性が高く、常温で1か月くらい日もちします。購入したらまず飾って鑑賞し、さわやかな香りに包まれながら食べごろになるのを楽しみに待つことができます。

晩白柚の実と皮

②大きな実と、肉厚のワタまで楽しむ

 八代晩白柚は果汁が多く、ほどよい甘味とさわやかな酸味で、一度食べるとまた食べたくなる上品なおいしさです。ひと房も大きいので食べ応えがあります。
 約2~3cmもある肉厚な皮の大部分を占める白いワタは、砂糖漬けにするとゼリーのような食感になり、おいしく食べることができます。

ワタの砂糖漬け

③皮はお風呂に入れて楽しむ

 外側の黄色い果皮は2~3日干してからお風呂に入れると、浴室でもさわやかな香りを楽しむことができます。八代地方の温泉では晩白柚風呂が冬の風物詩になっています。

出荷されていく晩白柚が入ったくまもんの箱

 八代地方特産晩白柚は冬の間だけの果実で、注文は2月下旬までの限定品です。無くなり次第終了となりますのでご注意ください。ご家庭用にも贈り物にも、ぜひ果実の王様「晩白柚」を楽しんでください。

 熊本の子どもたちが大人になって、冬にどこかで晩白柚を見かけたら、故郷を思い出すでしょう。子どもの頃の食の記憶は、心を支える軸となる大事なもの。筆者はこれからも食育の先生として、熊本の自然が育むおいしい食を通し、晩白柚の木のように強くたくましい子どもたちの心の土台づくりを、続けていきたいと思います。

<写真・文/松野文枝>
<取材協力/JAやつしろ果実選果場(稲田豊和様)、八代市果樹部会会長(福田清和様)

―[地元の食文化から食育を考える]―

松野文枝さん
熊本市在住。1男1女の母。日本キッズ食育協会マスタートレーナー、青空キッチン熊本校主宰。東京から熊本に引っ越してきて9年目。おいしい食材が豊富な熊本生活を楽しんでいます。「食べることを大事にすることは生きることを大事にすること!」小さな頃から食育を学ぶことは、生きる力を培う事という思いを軸に子どもたちに食育を教えています。(社)日本キッズ食育協会

カラふる×ふるさとチョイス