蛇口から天然ミネラルウォーター。熊本市は日本で唯一の地下水都市

「ミネラルウォーター」は買うものと思っていませんか? 熊本市では水道の蛇口から「天然のミネラルウォーター」が出てくるそう。420年の歴史があるという熊本市の豊かな水環境について、食育トレーナーとして活動する松野文枝さんに紹介してもらいました。

人口74万人の熊本市は日本で唯一、世界でも希少な「地下水都市」

地下水都市の発祥となった大規模水田
地下水都市の発祥となった大規模水田

 熊本市に引っ越してきて一番驚いたのが、日々の生活で使う「水道水」が100%「天然のミネラルウォーター」であることでした。蛇口をひねればミネラルウォーターが出てくるのですから、東京の水道水しか知らない私には衝撃です。

天然水を日常使い
天然水を日常使い

 幼稚園や学校の水ももちろん「ミネラルウォーター」で、子どもたちは蛇口から飲み放題。豊かな地下水のおかげで熊本県の農作物は米、酒、白玉粉など全国有数の生産量を誇り、中でも米は質が高いと定評があります。炊き上がりもふっくら甘くてとてもおいしい。私が主宰する青空キッチン熊本スクールでも、子どもたちはご飯が大好きで気もちよいほどモリモリ食べます。

水も米も熊本名産
水も米も熊本名産

そんな熊本市民の生活を潤している特別な水道水の大元である「地下水」が、どのようにつくられているのか調べてみました。

熊本の地下水システムは「自然と人の融合」

恵まれた地層
恵まれた地層

 熊本の地下水の仕組みは、阿蘇の自然がつくり出したものと、大規模水田開発という人の知恵との融合で成立しています。
 阿蘇山は27万年~9万年前にかけて4度、大噴火し、噴出した大量の軽石や火山灰等が熊本地域に降り積もった結果、約100mの層ができました。この地層は、何層にも重なって隙間に富み、水が浸透しやすい特徴があります。もともと阿蘇山周辺は全国有数の多雨地帯なので、降った雨や雪がしみこみ、長い年月をかけてろ過されていくようになりました。

熊本の地層
熊本の地層(出典:くまもと地下水財団)
加藤清正公の銅像
加藤清正公の銅像

 そして約420年前、加藤清正が肥後藩主となった際、白川中流域に堰や用水路を築き、大規模水田開発が行われました。白川中流域は水を張ってもどんどん染み込んでいく「ザル田」と言われる土壌で、水田から大量の水が浸透することで地下水がたっぷりつくられるようになり、ますます熊本地域の地下水が豊富になりました。この水田では今もたくさんの地下水がつくられています。
 
 こうして現在の熊本地域の水循環系は約420年前に完成し、現代へ続いているというわけです。
 地下水は阿蘇外輪から約20年の歳月をかけて磨かれながら熊本市で湧水となり、その水にはミネラル分や炭酸分がバランスよく溶けこんで、おいしい天然のミネラルウォーターになります。それが家庭の蛇口から出てくるのですから、あらためて驚きます。

熊本県内には1000か所以上の湧水

水前寺成趣園
国の名勝・史跡に指定されている水前寺成趣園

 地下水の豊富さを証明するかのように、熊本県内には1000か所以上の名水が湧く場所があり、都市部の熊本市内だけでも30カ所以上あります。熊本市中央区にある国の名勝・史跡に指定されている自然豊かな桃山式の回遊式庭園、水前寺成趣園は、広い池全体からたっぷり水が湧き出ているのが水面を見るだけでわかります。

江津湖
江津湖

 江津湖は、日に約40万トンの湧水量をもつ熊本市最大の湧水池です。市内中心部から近い市街地にこれだけ大きな湖があるのは珍しく、熊本市の豊富できれいな湧水を身近に感じられます。夏には子どもたちは水遊びを楽しみ、自然に触れあえる場所として市民のオアシスになっています。

子どもたちから未来へ繋ぐ「熊本の地下水」

天然水で遊ぶ
天然水で遊ぶ

 「蛇口をひねればミネラルウォーター」の環境は、私たち熊本市民の暮らしを豊かに潤してくれています。過去から現代と繋がった清らかな水に感謝をし、食育の先生である私は、子どもたちに水の素晴らしさや、水が育む食文化を伝え、この地下水を大切にして、子どもたちから未来へ繋がる活動をしていきたいと思います。熊本を訪れたときには、ぜひ清らかな水と、水が育むおいしい食に触れてみてください。

<取材・文/松野文枝>
かん水写真出典:熊本市 環境局 環境推進部 水保全課 参考資料出典:くまもと地下水財団

[地元の食文化から食育を考える]

松野文枝さん
熊本市在住。1男1女の母。日本キッズ食育協会マスタートレーナー、青空キッチン熊本校主宰。東京から引っ越して8年。おいしい食材が豊富な熊本を楽しんでいます。「食べることを大事にすることは生きることを大事にすること!」小さな頃から食育を学ぶことは、生きる力を培うことという思いを軸に、3歳の子どもから食育を教えています。
(社)日本キッズ食育協会